“信金3特性”で地域を元気に

高松信用金庫 理事長 蓮井 明博さん

Interview

2014.09.18

2011年の東日本大震災。大きな被害を受けつつも、地元信用金庫からの融資で救われた中小企業は少なくない。一方こちらはフィクションだが、大ヒットしたTVドラマ「半沢直樹」で、倒産しかけた主人公の実家の小さなネジ工場を救ったのは、やはり信用金庫だった。

「私たちの役割は、地元の中小企業を種まきして育てることです。小さな企業を創業時から支援し、すくすく育って大きく飛躍してもらう。それが本望なんです」

日本銀行を退職し、12年6月、高松信用金庫の理事長に就任した、さぬき市出身の蓮井明博さん(58)。信金の原点、「組織」「地域」「ネットワーク」の3つの特性を武器に、蓮井さんは種をまいて水をやり、故郷香川の企業を、町を、元気にする。
高松信用金庫本店営業部のみなさん。蓮井さんが持つ「経営理念」は、高松信金各所に提示されている

高松信用金庫本店営業部のみなさん。蓮井さんが持つ「経営理念」は、高松信金各所に提示されている

組織、地域、ネットワーク

金融機関の競争は熾烈を極めている。低金利融資を競い、銀行は次々と営業エリアを広げてくる。3年前、蓮井さんが高松信用金庫に専務理事として入った頃は、「効率を優先する銀行のやり方を追う傾向もありました」

激しい競争の中、存在意義を出すにはどうすればいいのか。出した答えは、「原点に戻ること」だった。「原点とは何か。私たちは銀行ではなく、信用金庫だということです」

蓮井さんは、信用金庫には3つの特性があると語る。1つ目は「組織」。信金は、中小企業や地域住民ら会員からの出資金で運営している。会員同士が支え合う相互扶助や非営利が基本理念にあり、株主の利益を重視する株式会社の銀行とは仕組みが大きく違っている。「運営するための最低限の収益は必要ですが、至上主義ではありません。利益は地域に還元するというのが根本にあります」

2つ目は、その「地域」。どこでも営業できる銀行とは違い、信用金庫は法律で営業エリアが決められている。高松信金のエリアは香川県限定だ。「私たちは、香川以外どこへも行けません。まさに地元と一蓮托生の運命共同体です」

地域に特化したきめの細かさが大きな強みだが、反面、それが弱みにもなる。地元企業の中には、海外に進出したり、県外企業と取引したりする企業もある。そうなると支援が難しくなるが、ここで3つ目の特性が強みを発揮する。「ネットワーク」だ。信金は全国に267金庫あり、都市銀行クラス約128兆円の資金量を持つ。「信金の横のつながりは強力です。県外と取引するお客様でも、先方の地元信金と連携して、間を取り持つことが出来ます」。信金のATMは全国に約2万台あり、どこでも高松信金のキャッシュカードが使える。手数料は基本無料だ。

「3つの特性が信金の存在意義であり、生きる道です。一つの金庫では力は小さいですが、全国で集まると大きな力を発揮できます」

信用金庫の会員資格
営業区域内に在住、勤務する、従業員300人以下または資本金9億円以下の事業者と個人など。1口500円の最低10口(5000円)を出資すれば会員になれ、融資が受けられる。預金は会員以外でも可能。

資金量
全国267金庫の預金高は2013年度末で128兆602億円。高松信金は3893億円(全金庫の約0.3%)。

小口でも成長できる

都市銀行、地方銀行、信用金庫・・・・・・。蓮井さんは、それぞれが切磋琢磨することは大事だが、金利で顧客を取り合うのではなく、今後は役割を分担していくことが必要だと語る。「ロット(単位)の大きな融資や外為などは、それに長けた都銀や地銀さんに任せればいいと思っています」

ここ数年、高松信金の総融資額はやや減っている。大きな金額が動く一方で低金利競争が激しい大口融資よりも、"小口多数"を優先させているためだ。「金額よりも取引先数。一つでも多くの、中小企業や個人の方と付き合っていく。たとえ小口でも、手間ひまのかかる採算が合わないような案件でも、信金にしか出来ないことをやっていくのが私たちの役目です」。今年7月の融資先数(民間企業と個人事業主)と預金先数を昨年3月時と比べると、融資先数が160件、預金先数が2000件増えている。

「信金の理念は利益追求ではなく、地域への奉仕です」。蓮井さんは何度もこの言葉を繰り返す。とは言っても、小口多数で手間ひまをかけていて、健全経営は成り立つのだろうか。「根気よくコツコツ積み重ねていけば、ロット×取引先数で成長していけます。ただ、時間はかかります」

日銀時代、蓮井さんは考査畑を進んだ。メガバンクや証券会社など全国のあらゆる金融機関に入って帳簿をチェックし、経営の健全性を判断してきた。良いところも悪いところも見てきた。その目には、絶対の自信がある。

地域とともに歩む覚悟

高松信金は、前理事長から2代続いての日銀出身理事長となる。蓮井さんは日銀時代、信頼していた直属の上司の父が、1951年の信用金庫創設時に尽力した大蔵省の銀行局長だったことから、信金にはなじみがあった。「当時は上司から、信金の役割や使命をこんこんと聞かされていました」

高松信金理事就任の話が来た時、縁を感じるとともに、故郷香川に恩返しをしようと気持ちが熱くなった。「地域の主役は中小企業と住民の方です。すべての企業や家庭に奉仕することで地域に貢献できる。これほどのやりがいはないですね」

中央銀行から地域金融機関への転身。役割も違えば、やり方も違う。手間ひまをかける分、貸出金利をそれほど低くは出来ないし、預金金利を極端に高くつけられもしない。価格競争でかなわない分は付加価値で勝負するしかない。

「かつての信金は、町のことなら信金マンに聞いてください、何でも知っていますよ、というのが一番の強みでした」。その頃の気持ちをもう一度大事にしようと、蓮井さんは、「行きます」「聞きます」「提案します」というキャッチフレーズを掲げ、職員に意識改革を求めた。

効率重視で顧客に来店を促すよりも、こっちから訪ねて行くことにした。集金等にも走る。台風が来ようが約束した時間に行く。そして話を聞いて、顧客の立場になって考える。ここにも"原点"を追う蓮井さんの姿がある。

「競争が激しい今だからこそ、大切なのは信金らしさです。頑張っている企業には分け隔てなく支援し、一緒に汗をかきます。この地域でやっていく覚悟、徹底的にこの地域を思いやるという覚悟が違いますからね」

蓮井 明博 | はすい あきひろ

1955年 10月26日 さぬき市生まれ
1979年 京都大学法学部 卒業
    日本銀行 入行
2000年 考査局(現金融機構局)考査課長
2004年 熊本支店長
2007年 検査室検査役
2011年 高松信用金庫 専務理事
2012年 理事長 就任
香川県信用金庫協会会長、四国地区信用金庫協会会長
全国信用金庫協会理事、しんきん共同センター理事 ほか
写真
蓮井 明博 | はすい あきひろ

高松信用金庫

住所
香川県高松市瓦町1丁目9番地2
代表電話番号
087-861-0111
設立
1949年5月23日
社員数
401人(2022年4月末、常勤役職員数)
事業内容
預金業務・融資業務・内国為替業務・外国為替業務・有価証券投資業務
地図
URL
https://www.takashin.co.jp/
確認日
2023.09.21

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