「トモロボ」とともに 人にやさしい現場を創る

建ロボテック 社長 眞部 達也さん

Interview

2021.12.16

「トモロボ」は6つの車輪でバランスを取り、碁盤目状に組んだ鉄筋をレール代わりにして進む=三木町上高岡の建ロボテック・開発室

「トモロボ」は6つの車輪でバランスを取り、碁盤目状に組んだ鉄筋をレール代わりにして進む=三木町上高岡の建ロボテック・開発室

現場支える結束ロボット

建設現場でゆっくり進む箱型ロボット。建ロボテックが開発した「鉄筋結束トモロボ」だ。「人と“とも”に働き、支える」という思いを込めて、眞部達也社長(45)が命名した。

建物の床や壁に使われるコンクリートには、強度を高めるために細長い鉄の棒(鉄筋)が埋め込まれている。「鉄筋コンクリート」と呼ばれる所以だ。

コンクリートを流し込む前、鉄筋は縦横に交差した碁盤目状に並べられる。鉄筋を固定するために、交差する「交点」を針金で縛って「結束」させなければならない。「結束作業は、ほとんどが屋外。夏の炎天下や冬の寒い中、田植えのように中腰になって機械的に行う非常につらい仕事です」。結束箇所はつくる建物などの規模により、数千カ所にも数万カ所以上にもなる。

この過酷な作業を自動化するのが「トモロボ」だ。床部分の結束に特化したロボットで、鉄筋の上を自立走行し、磁気センサーで鉄筋の交点を見つけると一時停止。1カ所あたり3秒程で、針金で縛っていく。「トモロボを使えば結束作業全体の35%程を省力化できます」。昨年1月から販売を始め、工務店など12社の計43台が全国のべ100カ所以上の工事現場で活躍中だ。

構想を抱いたのが2016年。実に4年がかりで「トモロボ」は誕生した。その道のりは試行錯誤の連続。挑戦と失敗と挫折の繰り返しだった。

“やじろべえ”の原理で光明

「トモロボ」は令和3年度四国地方発明表彰「文部科学大臣賞」を受賞

「トモロボ」は令和3年度四国地方発明表彰「文部科学大臣賞」を受賞

眞部さんも鉄筋工だった。父が創業した鉄筋工事会社の二代目として、日々腰をかがめて結束作業をしていた。「時間だけがかかる単純労働で、一番面白くない仕事でした」

眞部さんには子どもが2人いるが、「土日はいつも仕事で、学校の運動会に行ったことが一度もないんです」。厳しい労働環境、職人の高齢化に低賃金に、若者の建設離れ……。「建設業界を変えなければ」。その思いがトモロボ開発の第一歩だった。

トモロボは碁盤目状に組んだ鉄筋をレール代わりにして進む。だが、その鉄筋は人の手で並べているため誤差もあり、トモロボの重みで大きくたわむ。「レールが不安定で、すぐ脱線してしまうんです」。鉄筋の上を安定して走らせることがロボット開発最大の課題だった。「1m進んで脱線、改良しても3m進んでまた脱線で……」。鉄筋結束のロボット化は大手ゼネコンも過去に挑戦したことがある。しかし、この「自立走行」がクリアできず、ことごとく開発を断念している。

だが、眞部さんは決してあきらめなかった。「完成すれば、絶対にみんなが喜んでくれる。若い職人たちの給料を上げられる」。“やればできる”。そう信じて疑わなかった。
当初は鉄筋2列を使って進む4輪車だったが、「3列6輪にすれば、“やじろべえ”のようにバランスを取れるのでは」と発想を変えた。車輪の軸の部分にバネを組み込むことで、鉄筋のたわみや誤差に合わせて柔軟に動けるようにした。

鉄筋の「交点」検知には、高感度カメラや赤外線などを試したが、うまくいかない。「工事現場は土埃が舞い、雨に濡れることもあって……」。そこで目をつけたのが“磁気”。「磁気センサーにすることで、日が暮れても暗闇でも、交点を見つけられるようになりました」。試作機を何度もつくり直し、19年10月、ついに「トモロボ」が完成した。

だが、またも困難が訪れる。意気揚々と工事現場にトモロボを持ち込んだ時、いきなり職人に胸ぐらをつかまれた。「お前、俺たちから仕事を取る気か!」

元請けには売らない

眞部さんのトモロボ開発には揺るぎない信念がある。「人の代わりになって、仕事を奪うのではない。一緒に働くことで、人を助ける」ことだ。

大手住宅メーカーから「トモロボを50台買いたい」と注文が入ったことがある。眞部さんは即答した。「お断りします」。元請けがトモロボを持てば、“人の代わり”にされ、下請けに出す仕事量が減ってしまう。トモロボは「仕事を請け負う職人や工務店向けに販売やレンタルする」のが眞部さんのルールだ。「そうすれば、職人さんがもらうお金は変わりませんから」

機動力をアップさせる専用器具「トモロボスライダー」をつくるなどトモロボは今も進化中で、来月には米ラスベガスの展示会に出展予定。また、工事現場の重い機材を運ぶ新たなロボット「運搬トモロボ」も開発が進む。「トモロボシリーズとして、あと3つ程ロボット構想があります。まだ内緒ですけどね」。眞部さんは楽しそうに話す。

「建設は人の暮らしや『生きること』を支える、とてもかっこいい仕事だと思う」。車を買って、家を建てて、子どもの運動会も見に行ける。「そんな、穏やかに暮らす仲間が集まる工事現場にしたい。“ロボット労働力”をもっと生み出し、『世界一ひとにやさしい現場』をつくっていきたいと思っています」

篠原 正樹

眞部 達也 | まなべ たつや

1976年 さぬき市生まれ
1996年 辻調理師専門学校 卒業
2001年 有限会社都島興業 入社
2013年 建ロボテック株式会社 設立、代表取締役
2016年 都島興業 代表取締役

建ロボテック株式会社

住所
香川県木田郡三木町上高岡246-2
代表電話番号
087-898-0555
設立
2013年
社員数
9人(2021年12月)
事業内容
建設現場省力化ソリューション
・省力化技術/製品の企画・開発・販売
・建設現場の省力化専門サイト「速鉄」(ソクテツ)運営
・省力化研究サイト「Con,Lab」(コンラボ)運営
地図
URL
https://kenrobo-tech.com/
確認日
2021.12.16

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