香りに込める歴史への思い

株式会社一 代表取締役・合香師 岩佐 一史さん/代表取締役 戸田 啓喜さん

Interview

2022.04.07

(左から)戸田さん、岩佐さん。親しい人には「弁慶と義経」になぞらえられることも

(左から)戸田さん、岩佐さん。親しい人には「弁慶と義経」になぞらえられることも

仏壇仏具を扱う老舗の家に生まれ、戦争体験を持つ祖父に幼い頃から「神仏を拝む時は真剣に向き合うように」と教えられて育った岩佐さん。「祖父は閉店後に地域の人たちが相談事に訪ねてくるような、面倒見のいい人でした。いろんなことを教えてくれた祖父の名に恥じないよう、何事も懸命に取り組んだものです」。

高校卒業後は京都の大学に進学し、仏教学を専攻するかたわら、子どもたちを集めて寺子屋活動を行うサークルにも参加した。そこで各地のお寺の跡継ぎたちとの縁が生まれたこと、読書が好きで古本屋が多い京都のまちを歩き「古文書のようなお香の本にも触れた」ことは、今に続く岩佐さんの糧となっている。
お香の世界を志したきっかけは、東京の問屋に務めていた時のこと。沈香の中でも頂点とされる「伽羅」の香りにたちまち魅了された。お香文化の歴史の深さや情報量の豊かさに感動し、祖父の教えである「神仏を拝む姿勢」を今の世に伝える表現方法としても、「香り」が身近な入口になるのではないかと気づく。「西本願寺で自殺願望のある人たちのサポートをしたことや、親しい友人を亡くしたことも、精神的な世界と真摯に向き合う気持ちを深めたように思います」。

遍路文化の精神性が深く根づく四国で、心安らぐお香文化をあらためて発信したい─。そんな思いから、戸田さんと株式会社一を立ち上げたのが2020年。「そういうことなら手伝おう!と心から思いました」という戸田さんは岩佐さんの祖父の代の社員で、岩佐さんが小学生の頃から見守ってきた仲だ。「今の時代に沿ったスタイルで、旧態をぶっ壊すくらいやってほしいと、当時本人にも言いました」。
オーダーメイドのお香グッズ例。「香るアイピロー」は 大都市圏の大手デパートでもギフトとして人気が高い

オーダーメイドのお香グッズ例。「香るアイピロー」は
大都市圏の大手デパートでもギフトとして人気が高い

香料には一つ一つに歴史と意味があり、それを知ってお香を使えば見える世界もがらりと変わる。岩佐さんは寺院や大学と連携して香料を学ぶワークショップを展開しつつ、合香師としてオーダーメイドの香りを調香したり、グッズをプロデュースしたりと幅広く活躍。香港やフランスなど海外からも講師の引き合いが増えているほか、六波羅蜜寺をはじめ全国の名刹とコラボすることも少なくない。オーダーを受けた時は必ず依頼先の歴史をひもとき、ゆかりの深い香りに仕上げる。「いずれは一人一人違う『その人特有のお香』を提案できるようになりたいですね」。

一方、戸田さんは長年育んだ仏具のノウハウを生かし、仏具や施設の修繕を通じて寺院の維持管理と次世代への継承を支えている。傷んだ部分も歴史ととらえ、できるかぎり元の姿を生かす丁寧なメンテナンスが特長だ。「お寺はかつて勉学や医学の拠点であり、コミュニティの要でした。人間が集まることで生まれるものが今もきっとあるはず。そういう『変わらぬもの』を今の時代に沿う形で提案し、寺院文化の再生をお手伝いすることが、地域福祉にもつながると思っています」。

形のないお香と、形として残る仏具。二人はそれぞれの得意分野を生かし、同じ思いの下で歴史に向き合い新たな価値観を発信している。

戸塚 愛野

岩佐 一史 | いわさ かずし

1986年4月18日 高松市生まれ
2009年3月 龍谷大学 卒業
2009年4月 株式会社こもりコーポレーション 入社
2011年4月 株式会社岩佐佛喜堂 入社
2014年3月 本店営業部長 就任
2020年 岩佐佛喜堂(代表副社長)退任後 株式会社一設立
写真
岩佐 一史 | いわさ かずし

戸田 啓喜 | とだ よしき

略歴
1972年 高松市生まれ
2020年 岩佐佛喜堂(寺院営業部長)退任後 株式会社一設立

株式会社一(いち)

住所
香川県さぬき市志度4370-4
代表電話番号
087-883-0134
設立
令和2年6月
事業内容
お香の製造・販売 寺社設備・荘厳等取り扱い
地図
URL
https://1-ichi.net
確認日
2024.01.04

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