地域の財産を守るのは“誰か”ではなく“自分たち”
「四国遍路」にはどんな価値がある?

ビジネス香川編集室

Special

2023.05.18

お遍路さん(弥谷寺)香川県文化振興課提供

お遍路さん(弥谷寺)香川県文化振興課提供

世界遺産登録を目指す背景

少子高齢化、人口減少が地域に与える影響はさまざまだ。小売、飲食、医療機関といった生活関連サービスや公共交通の縮小、行政サービスの低下……。担い手が減り、祭りや地域の文化・風習などがなくなることも挙げられる。

「四国遍路」もその一つだ。四国4県に点在する霊場(札所)を巡る、約1400キロメートルの壮大な文化的財産。範囲は広いが、それぞれの札所や遍路道は近くに住む地元の人々などを中心に手入れされ、1000年以上守られてきた。現在も、NPOを含む多くの人が遍路道の維持管理や、飲食の提供などの「お接待」で四国遍路を支えているが、これらの活動も関わる人の減少、高齢化が進んでおり、将来的には遍路文化の衰退が予測されている。

そんな中、地域活性化を目指す行政や経済界から、四国遍路の世界遺産登録を目指す動きが起こり、2006年に四国4県が共同で文化庁に四国遍路を「暫定一覧表」(※注)への記載候補として提案。2010年には行政、大学、四国八十八ヶ所霊場会、経済団体、NPOなど97団体で構成された「四国八十八箇所霊場と遍路道」世界遺産登録推進協議会(現在の四国遍路世界遺産登録推進協議会。以下、協議会)が設立され、“四国全体”で取り組みが進められている。

世界遺産としての価値と、私たちが考える価値

世界遺産に登録されるには、まず国内の「暫定一覧表」に記載された上で、その中から国が、ユネスコ世界遺産委員会に対し、「世界遺産一覧表」への記載を推薦(年1件)し、諮問機関で審査される。四国遍路は現在、その暫定一覧表への記載を目指している段階で、文化庁からは「四国遍路ならではの顕著な普遍的価値を証明すること」などが課題として示された。

協議会では4つの部会の一つ「普遍的価値の証明」部会で、学術的価値について専門家が研究。修行の場として始まり、江戸時代にはすでにガイドブックも出版され一般大衆にも巡礼が浸透していたといった歴史も踏まえながら、札所や遍路道などの調査も進めている。

ただ、「世界に類のない“世界遺産としての価値”と、私たち地域の人が“心で感じる価値”は違うかもしれません」と言うのは、協議会の構成団体の一つ、四国経済連合会企画調査部長・松野清孝さん。信仰の場として考える人もいれば、巡礼を通した自分探しや日常からの解放、お接待を通した交流……。何に価値を見出すかは人によって違うが、それでも「四国遍路は守るべき財産」という思いは共有しながら、それをより多くの人に広げていくことが、取り組みの第一歩だという。

世界遺産登録のメリットは

世界遺産登録の目的は、普遍的価値がある文化遺産や自然遺産を人類全体のための遺産として保護し、後世に遺すこと。その副次的な効果として登録をきっかけに地域の財産に対する誇りが醸成され、保護する責任も生まれる。国内外から注目を集めることで観光客が増加し、地域活性化につながるなどが挙げられる。

ただ、「登録はゴールではなくスタート。いかに価値を守り、持続させるかが重要」と松野さん。実際、世界では、登録後に極端な観光地化が進み住民の生活に影響が出る、利便性を追求し周辺を開発したために登録が取り消しになるといった事例も。これらの課題を踏まえ、国は遺産保護には「住民をはじめ地域コミュニティが主体的にかかわる」ことが重要であるという答申をとりまとめた。

協議会でも、四国遍路に何らかの関心、関わりをもつきっかけづくりとして、道案内や休憩所をチェックしながら遍路道を歩くNPO主催のイベントに参画したほか、四国経済連合会では札所周辺のおすすめスポットを紹介したガイドブックを作成している学生を支援するなどの活動を続けている。

四国遍路に限らず、また世界遺産に登録されるようなものではなくても、有形無形の価値あるものは意外と身近にあるかもしれない。まずは関心をもつこと、そしてそれにどんな価値があるのか考えてみたい。

※注 将来「世界遺産一覧表」に記載することが適当であるものの目録として、世界遺産条約の事務局であるユネスコ世界遺産委員会へ提出するもの

WSワークショップ

●四国遍路の価値は何だと思いますか。

●文化が衰退することで、地域や社会にどんな影響があると思いますか。

●身近にあるコト、物で後世に遺したいと思うものは何ですか。

【取材協力:香川県文化振興課、四国経済連合会】

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