若きリーダーが見つめる四国、香川の2017年

Prime Person 新春スペシャル企画

Interview

2017.01.05

高松市香川町稱讃寺で

高松市香川町稱讃寺で

2017年が幕を開けた。

ビジネス香川では、新春スペシャル企画として、ことでんグループの代表で、公共交通のみならず瓦町FLAG、コンビニや自動車ディーラーなど地域の生活インフラ企業の経営に携わる真鍋康正さん(40)、徳島を拠点に、事業所で従業員の子どもに英語教育をする「事業所内保育」を展開しているリノヴェ社長の柏木陽佑さん(37)、若者たちの交流の場やネットワークをつくる四国若者会議の代表理事で、実家の稱讃寺で副住職も務める瑞田信仁さん(30)に集まっていただいた。

2016年はどんな年でしたか?

真鍋:地方やローカルという文脈が更に注目され、多くのことが生まれて成長したと感じた1年でした。インバウンド(訪日外国人)増という流れもあり、これからは県境とか市町村という概念を取っ払って、もっと大きなエリアとして地域を見ていかなければならない。力を合わせてどうやって盛り上げていくのか、今回のメンバーでは私が最年長ですが、人づくりに頑張っている若いお二人と話ができてとてもうれしく思っています。

柏木:3年前から「事業所内保育」を事業の中核としてやっています。我が国にとって保育の受け皿というのは非常に大事な時期に来ていて、昨年辺りから事業所内保育にスポットが当たり始めてきた。引き続き、東奔西走しながら頑張っていきたいと思っています。

瑞田:「四国若者会議」を立ち上げて3年、これまでは関係者を増やして活動を「広げる」ことに邁進してきましたが、そろそろ「深める」局面に来ているのではと考えさせられた1年でした。きょうは先駆的な事業を展開されているお二人から、事業的に一歩先へ進むヒントを学びたいと思っています。

都会から地方への移住や起業など、若者の生き方が変化している印象がある。みなさんもUターン組だが、地方で働くことや今の若者の姿をどのように見つめていますか?

真鍋:若い世代の暮らしの感覚は確かに変わりつつあります。インターネットの浸透で情報は入手しやすくなり、地域間の情報格差がなくなった。さらに交通網の充実で移動もしやすくなり、自由に地域を移動しながら自分らしい暮らしを形作っている人が増えている。一方で、その便利さを上手く活用できない人たちもいると思う。地方でも不便は少ないということを伝えたり、背中を押してあげたりする地域の取り組みも必要なんだろうと思います。

柏木:私は30歳の時、地元徳島に戻って創業しました。都会より家賃も安いし、地元の人が応援してくれるのもうれしい。徳島ではサテライトオフィスも増えていて、2拠点居住など新しいライフスタイルが始まってきているのも感じる。私自身、田舎暮らしに不自由さはない。自然に恵まれていて環境もいい。車もほとんど走っていないので、夜も静かで仕事に集中できますよ(笑)。

瑞田:SNSが盛んになっているのを見ると、若い人たちが繋がりや、他者からの関心や承認を求めているのは間違いないと思います。また、積極的にアクションを起こす人と起こさない人がいますが、その違いはモチベーションの設定の仕方にあるのでは。「これのためなら寝る間を惜しんでも頑張りたい」という動機を見つけた若者の精神力・行動力はものすごいものがある。「繋がりが欲しい」という部分と、「何か動機を見つけた時の破壊力」が若い人たちには内在しているのではと思います。

瑞田さんは、「四国に関わりを持ちたい」という若者たちを束ね、交流イベントの開催や、新しい生き方や働き方、豊かな暮らしなどについて考える活動を続けている。

瑞田:若い人たち同士の繋がりをつくり、関係を豊かにすることを通じて、四国の豊かさに貢献したいと思っています。強く感じるのは地域間の競争が激しくなっているということ。以前だと、興味を持つのはその土地にゆかりがある人がほとんどだったが、今では「地縁はないけどこの地域は魅力的だから行ってみたい」といった動きが加速している。四国の人でも、「東北のこの取り組みが面白そうだから」と行ってみたりする。地方創生が叫ばれることで選択肢が増えた。他の地域以上に選ばれる四国であるには、より一層若者に響く四国の魅力づくりや特に人づくりを意識していく必要があると感じています。

真鍋:香川県の有効求人倍率は全国的に見ても高い水準で、働きたい人が不足している。それは生産年齢人口が減っているというだけでなく、企業や地域がそこで暮らすことや働くことの価値を伝えきれていなかったんだろうと思う。都会の仕事とは違う、地域の魅力とともに暮らし仕事をしていくことの意味をしっかり伝えていかなければならない。その点、瑞田さんは、今までのUターン支援イベントなどとは違う手法でチャレンジしている。なぜその地方で働き、暮らしているのかという意味を自分のストーリーで語れる人が集まっている。必ずしもUターンすればいいとは思わないが、人が目まぐるしく移動する時代だからこそ、特定の場所にこだわらない暮らしもこれから十分可能だと思う。都会と地方を行き来しながら仕事をする、その中の一つに四国がある。そんな新しい暮らし方を提案するなど、とてもユニークな活動をしていると思いますね。

四国若者会議の事業に、東京で開催する大規模イベント「四国若者1000人会議」がある。四国は東京でどう見られていますか?

瑞田:四国の知名度は決して高くないが、四国を知らない人はいません。特に地方創生などに感度の高い人からは「エッジの立った地域だ」とか「連帯感がある」と言われることも多い。「4県は仲が悪い」と言う年配の方もいるが、私たちの世代の印象は違うんだろうなという気がしています。「四国は一つ」で、「面白い取り組みをしている地域」という印象を持たれていると感じます。

柏木:1000人会議には、東京に住む私の友人も参加させていただいているので、そこから何か繋がっていけばいいなと期待しています。四国は八十八ヶ所がありスピリチュアルな島だと全国的にも注目されているので、瑞田:さんにはぜひ新しい企画にチャレンジしていただいて、質の高い四国になるためのイノベーションを起こしてほしいですね。
「事業所内英語保育」地方創生のモデルにしたい 柏木 陽佑さん
柏木さんは、子育て応援やグローバルな人材育成を目的にリノヴェを創業。企業や病院内に保育所を置くやり方は、社員採用や社員満足度向上の効果もあると注目されている。

柏木:「企業の保育園」として企業に費用の一部を負担してもらうやり方を取り入れています。創業当時は手探りの状態で需要も少なく、軌道に乗るには時間が掛かったが、企業と一緒に、グローバルな“人財”を育成するという点にとてもやりがいを感じている。保護者から感謝もされ、地元のいろんな方が応援してくれるので、これが地方創生に寄与するモデルの一つではないかと思っている。全国に広げていけるよう頑張っていきたいですね。

真鍋:先ほど情報格差と移動の不便さが減少しているという話をしましたが、今も残るのが「言葉の壁による情報格差」だと思う。世界中の情報がWeb上にあるが、多くは英語。例えばアメリカ大統領選でも、ソーシャルメディアなどを通じて現地のリアルな情報をもっと知ることができていたら、日本のメディアの予測も変わっていたのかもしれない。情報がいくらでも手に入る時代なのに言葉の壁によって阻まれているのはもったいない。世界は本当に多様で豊かだということを知るために英語を学ぶことは、子どもにとって深い意味があることだと思う。柏木さんにはどんどんそういう子どもを育てていってほしい。

柏木:英語を一つのツールとして、世界各地の多様性や考え方の違いを子どもの時から身につければ、海外へ出ていった時も、「日本とは何か」といったことをアピールできる。文化やビジネスの違いを理解して、商談なども適切にできて、勝てるビジネスマンになれるのでは。真鍋さんがおっしゃる通り、園児へのそういった機会をもっと増やしていきたいと思います。

これからの地域には、どのような教育、どのような人づくりが必要でしょうか?

真鍋:人口減と高齢化の流れを変えることは恐らくできないと思う。ビジネスの規模は縮小し、使えるリソースも限られてくる。でも、知恵を出し合って子どもを育てることはできるのでは。専門職でなくても空いた時間に手伝える・教えることはできるよという大人はいる。教育とか人づくりというのは、みんなが持つリソースをいかにうまくシェアしていくかということがカギになるのではないでしょうか。

瑞田:子どもたちにとって、学校外の時間をどう使うかはすごく大事なことだが、地域の中には家と学校以外の居場所が減っている。例えばお寺がそれをカバーできればと思っていて、今は寄り道したら先生に怒られてしまうが、帰り道にここに寄って年配の方や先輩に勉強を教えてもらえる、夜になったら大人も来て子どもと相互に学び合える、お寺がそんな場になれば。オープンスペースのような、寺子屋のような機能をお寺が担えれば、地域の繋がりや世代間の交流が生まれ、学校とは違う学びが得られるのではないかと思っているんです。

真鍋:サプライヤー(供給者)とコンシューマー(消費者)とか、会社とお客さんといった役割の分け方は、これからだんだん薄れていくのではないか。手が空いている人は助ける、困っている時は助けてもらう。与え手と受け取り手がどんどん入れ替わっていくのが、これからの地方の在り方だと思う。その時に大事なのは、私たちは助ける側でもあり、同時に助けられる側でもあるという当事者意識。当事者として主体的に関わろうとする人をどれだけ多く作っていけるかが、これから地域が生き残っていく一番大きな人づくりの課題だと思う。教育だけに限らず、例えば買い物が困難な人もいるし、移動が困難な人も増えてくる。そういう人たちの生活をどうサポートするか。地方こそシェアリングエコノミーが求められているのでは。そういった試みが四国でも始まりつつあるので、私も当事者意識を持って関わっていきたいと思っています。
ことでん 社長 真鍋 康正さん × リノヴェ 社長 柏木 陽佑さん × 四国若者会議 代表理事 瑞田 信仁さん ×

ことでん 社長 真鍋 康正さん × リノヴェ 社長 柏木 陽佑さん × 四国若者会議 代表理事 瑞田 信仁さん ×

2017年はどんな年にしたいですか?

柏木:目標は、会社としてしっかり成長すること。そうすれば、地元も成長すると思っているし、応援してくれている方にも恩返しができる。まずは会社として事業計画通りにしっかり頑張っていかなければと思っている。あと、四国は今本当にチャンスだと思っていて、インバウンドもすごく増えている。そこでも寺社仏閣などは大きなコンテンツになっているので、所属する経済団体のインバウンド事業にも積極的に参加して、四国に寄与していきたいと思っています。

瑞田:3つの軸で動こうと思っている。1つ目は継続。若者会議でもお寺でもニーズや手応えの大きかったものについてはしっかりと継続させていきたい。2つ目は新しい場づくり。アンテナを張り、より若者の潜在的なニーズを刺激できる場づくりを模索したい。3つ目は一段階先の事業づくり。若者会議の場づくりは決して目的ではなく、きっかけでありスタートに過ぎない。人と人の繋がりによる刺激や化学反応から新しいアクションが生まれる、その入口部分を担ってきたが、もうひとつ先のフェーズでも役立てることはないか。教育なのか別のコンテンツ創造なのかはまだ分からないが、若者会議もお寺ももっと面白い場にするため、深堀りしていける何かを見つける年にしたいと思っています。

真鍋:昨年はイギリスのEU離脱への国民投票やアメリカ大統領選挙におけるトランプ氏の勝利など、世界がオープンに繋がっているという楽観的な認識とは全く違う方向に動いていると感じた。アメリカ大統領選の得票を見ると、地方と都会、地方都市と郊外の断絶が見て取れる。想像以上に、住む場所による意識の格差が大きい。逆に言えば意識が近い仲間が同じ場所に集まってくる。移動手段やSNSがそれを支え、便利になればなるほど、コミュニティごとの意識の断絶が拡大しているような気がしてならない。住む地域や世代やコミュニティによって大きく異なる意識の、その深い断絶にどう橋渡しをしていくのか。私たちは真剣に考えなければならないし、そこに当事者意識を持って関わっていきたい。昨年はこの場で、30代最後の年なので生き急ぎたいと言ったが、40代になってもやっぱり生き急ぎたい。この地域を凝視しながらも、学び続け、動き続け、生き急ぎたいなあと思っています。

生まれ育った故郷にUターンし、それぞれの舞台で活躍する3人の若きリーダーたちが、新年の展望、地域の人づくりや教育、若者の生き方などについて熱く議論を交わした。

真鍋 康正 | まなべ やすまさ

1976年高松市生まれ。一橋大学経済学部卒業後、コンサルティング会社等を経て、2009年高松琴平電気鉄道(株)入社。14年代表取締役社長就任。その他、ことでんバス(株)及びことでんサービス(株)代表取締役社長、コンビニエンスストアを開発・運営するアイル・パートナーズ(株)代表取締役社長、香川日産自動車(株)取締役等を兼務する。
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真鍋 康正 | まなべ やすまさ

瑞田 信仁 | たまだ しんじ

1986年香川町生まれ。一橋大学社会学部卒業後、(独)都市再生機構を経て、2014年四国若者会議を一般社団法人化し代表理事就任。「四国若者1000人会議」等様々な交流イベントを通して、働き方や暮らし方に関する若者目線での新しい価値の創造を目指している。実家の稱讃寺で副住職も務める。
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瑞田 信仁 | たまだ しんじ

柏木 陽佑 | かしわぎ ようすけ

1979年徳島県那賀町生まれ。米・セントラルワシントン大学コミュニケーション学科卒業後、シアトルの出版社、(株)ジオス等を経て、2011年(株)リノヴェ創業、代表取締役社長就任。企業や病院等で英語教育を行う「事業所内英語保育園」を展開し、14年に全国初の事業所内保育園で英語保育を行う施設を阿南市で開始。
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柏木 陽佑 | かしわぎ ようすけ

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