景気を知る意味?

日本銀行高松支店長 菱川 功

column

2015.10.01

仕事柄、全国や地元の景気の状況についてお話申し上げる機会がしばしばある。その際に、お聞きになっていた方から、「自社の実感と合わない」と伺うことがある。私共にとっては、それこそ大変貴重なご意見なので、出来る限り機会を設けてそうした方のお話を伺うよう心掛けている。

もっとも、ある地域の景気の全体感と、そこで営業をしている個々の企業の業況が一致しないことは、実は一般に思われているよりも多いのも事実である。個々の企業の業績は、景気全体の勢いに左右されるだけではなく、個別の商品やサービスの競争力であったり、仕入価格と販売価格の差がどう動いているかであったり、ターゲットとしている顧客層の需要動向であったりといった、より多様な要因によって決まる部分も大きいためである。

では、地域全体としての景況感は自社の業績との相関関係が常に高いとは限らないとすると、景況感についての情報は、ビジネスの観点からは役に立たないものなのだろうか。

個人的には、そうではなくて、景気の大きな流れを知ることには相応の情報価値があり、中でも大きいのは、社外においてどのような経営資源(典型的には、人手やお金)が足りないのかが、ある程度推測できることではないだろうかと考えている。

例えば、景気が上向きの状況がある程度以上続いた場合を考えてみる。自社の業績という意味では良くなる場合もあれば良くならない場合もあるかも知れない(どちらかと言えば、いずれ良くなる可能性は高いだろうけれども)。しかしながら、そうした状況下では、遅かれ早かれ、人手の確保に苦労することになる可能性は高そうだ。

逆に、景気が冴えない状態が続いた場合、外部からの資金調達は、平時に比べると相対的に苦労するようになる可能性が高いだろう。こうした状況は、金融機関を始めとする資金の出し手の供給余力を押し下げることにつながりやすいためである。

翻ってみると、私共が香川県の景気について「緩やかに回復している」という表現を(若干の言い回しの変化はあるものの)使うようになって、既に2年弱が経つ。

最近、地元の経営者の方々から、人手不足の問題が重要な経営課題だという話を伺うことが増えたが、少子高齢化といった構造問題も寄与しているとは思われるものの、景気が緩やかながら上向きの状況が続いたことも、大きく影響していると考えている。

菱川 功|ひしかわ いさお

略歴
1966年1月  兵庫県生まれ
1988年3月  国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月  日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月  ニューヨーク事務所
2007年7月  金融機構局企画役
2009年7月  大阪支店営業課長
2011年7月  国際局総務課長
2013年6月  国際通貨基金へ出向
2015年6月  高松支店長
写真
菱川 功|ひしかわ いさお

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