頑固が香川の「農」をおいしくする。

まつもと農園 代表 松本 稔さん

Interview

2011.04.07

「なぜトマトが甘いの」「どうしてキュウリがまっすぐ育つの」・・・小学生に聞かれた。脱サラで農業を始めて2年目、まつもと農園代表 松本 稔さん(38)は答えられなかった。

トマトとキュウリの肥料が違う理由も判らなかった。高度な栽培技術より、子供たちの素朴な疑問に答えられる知識が欲しい。トマトにキュウリの肥料を、その反対もやってもみた。

「野菜ソムリエの妻は、私の作るトマトに納得してくれませんでしたが、8年かかって、去年やっとおいしいと認めてくれました」

小学生の「なぜ」を8年追って作ったトマトを、松本さんは異業種と一緒に製品化した。もうすぐ売り出す「セミドライトマトのオリーブオイル漬け」だ。

松本さんは「生のトマトより10倍おいしい。全国のグルメにきっと評判を呼ぶ」と確信している。

※野菜ソムリエ
日本野菜ソムリエ協会の資格。野菜・果物の魅力や感動を周知させるスペシャリスト。

親子2代の脱サラ農業

松本さんは脱サラ専業農家の2代目だ。「もともと家は兼業の小さな農家で、農家がいやでサラリーマンになりましたが、勤めをやめて専業になった親父が、すごくいい顔をして農作業をしているので、考えが変わってきました」

数年悩んだ。農業だけで生活できるか、農家の同級生や知り合いに相談した。「会社勤めより収入は低いが何とかやれる。うまくやって何億も売り上げる農家もある」・・・いい話しか耳に残らなかった。

「反対した妻を1年かけて説得しました」。運送会社を辞めて就農した。29歳だった。父の定雄さん(74)は、ビニールハウスを1棟増設、作付面積を2倍に増やして、1年後に引退した。

数年後、近所の農業を辞めた7軒から農地を借りて、3ヘクタールに増反し施設も増設した。

「なぜ」を試した8年間

農業を始めたとき、野菜作りの知識がなかった。キュウリ栽培を父から教わったが、父の教えに反発して3年間は市場に出荷できるまともなキュウリを作れなかった。

なぜトマトが甘くなるのか、どうすればキュウリが真っ直ぐ育つか。肥料がなぜ違うのか。松本さんは頑固な一徹者だ。手ほどきされた父や先輩農家がやることの反対を、一つひとつ試してみないと納得できなかった。

「キュウリは水を欲しがる作物だというんです。
『なぜ』と聞いても、とにかく水をやれというだけで、誰も答えを教えてくれません」

水を減らしてみたらキュウリが変形した。「水を欲しがる理由が解りましたが、全部のキュウリ畑で試したので、キュウリは全部変形しました」

奥さんも脱サラ農業

農業を始めて2年目、骨の病気で1ヶ月入院した。キュウリが実っているのに収穫が出来ない。宇多津の会社に勤めていた妻の小百合さんは、仕事をやめた。野菜ソムリエの資格も取った。

「毎日が目新しくて面白い。トマトの加工品も始めて、いろんな分野の人と出会えますから、会社勤めより楽しいです」

小百合さんの担当は、去年から道の駅滝宮で始めた観光イチゴ農園だ。トマトやキュウリなどの野菜生産は松本さんの担当だ。

「農」で香川を元気にする

松本さんは、「農家が元気になれば香川が元気になる」をスローガンに、若手農家が消費者や異業種と交流する「香川げんきネットSEED」の副代表だ。

まつもと農園でつくるトマトやキュウリの2割は、ヘタが取れたりキズがつく。味は同じなのに市場に卸す値段は半値以下だ。

商品価値をもっと付けたいと「SEED」の交流会で相談した。一昨年の夏、東京の野菜ソムリエから、規格外品のトマトを使った商品開発のアイデアをもらった。

香川のトマトに小豆島のオリーブオイルを組み合わせた、農家自家製安心安全の「セミドライトマトのオリーブオイル漬け」の開発だ。

農商工連携事業

栽培に忙しい松本さんは、加工品の開発に取り組む時間も知識もない。かがわ産業支援財団に相談したら、去年「かがわ農商工ファンド事業」に認定されて、4つの異業種がタッグを組むことになった。

まつもと農園は、規格外トマトの天日干しを供給する。(株)アグリオリーブ小豆島(オリーブオイルなどの生産販売)は、化学肥料を使わない手摘みオリーブのオイルを供給する。(株)瀬戸の香(食品加工業:小豆島)は、佃煮製造の技術で瓶詰めしてラベルを貼って製品にする。(株)ひ・ろ・が・れ小豆島は、小豆島産品を販売してきた経路で首都圏の市場を開拓する。  

役割分担が決まって開発がスタートした。

※かがわ産業支援財団
理事長 中山 貢 高松市林町2217-15
TEL:087-840-0348

※かがわ農商工ファンド事業
財団法人かがわ産業支援財団が行う、中小企業と農林漁業者の連携する事業への助成

10倍おいしい!

味の調整はほぼ完成した。発売予定は5月末だ。「小豆島産オリーブオイルは、1リットルが米1俵ぐらい、1万円ほどするので、値段は180グラム入り3500円に決まりました」 

今年の売り上げ目標は1千個、まつもと農園の手取りは50万円。5年後の売り上げ目標は1万4千個、手取り700万円の目標だ。

生トマトを天日干しで五分の1ほどに凝縮して、宇多津の入浜式製塩の塩だけを加えた「セミドライトマトのオリーブオイル漬け」は、値段は輸入品の数倍だが、「生のトマトより10倍美味しい」を売りにする高級食材だ。

「ワインに添えて楽しむのもいい。もったいないが具材で入れるとパスタがごちそうになる」。松本さんは胸を張る。

失敗は”失敗”ではない

去年はトマトが全滅した。原因は虫が媒介するウィルスだ。「虫のいない無菌のビニールハウスはあり得ません。どこのトマト農家も一度はやられていると思います。自然相手の農業では当たり前で、失敗ではないんです」 

トマトやキュウリが全滅しても、がっかりしている暇はない。「他の作物にすぐ植え替えると、いくらか損を補えます。それが野菜農家の利点です」

農業は厳しい。難しい。だけど楽しい。どうにかしようと頑張ればどうにかなる。一徹者の松本さんはいい顔をして、頑固に「なぜ」を追求する。「農」を美味しくする。


キュウリの味に挑戦

松本さんは、本当は野菜嫌いだという。そんな松本さんはある時ある場所で美味しいキュウリを食べた。

「みずみずしくて、すがすがしい香り。ミネラルウォーターを食べているような味がしたんです。肥料と水とのバランスをきっちり取って作ったキュウリに違いありません。子供を育てるように細かい管理をすると、美味しいキュウリになるんです。これは負けたなと思いました」

また「なぜ」の課題が出来た。そのキュウリを越える味を追及して、松本さんは水を増やしたり減らしたり、肥料成分を調整して試行錯誤をかさねている。

すがすがしい香りの、形のいいキュウリに出会ったら、まつもと農園のキュウリと思ってほしい・・・
それが、松本さんの次の目標だ。

松本 稔 | まつもと みのる

1972年 綾歌郡綾川町生まれ
2002年 脱サラでキュウリ栽培を始める
2005年 施設(ビニールハウス)を増設、農地も増反
2006年 農地を増反
2007年 加工品に取り組み始める
2008年 かがわ農商工ファンド事業第一号認定
2009年 施設(ビニールハウス)を増設
    農商工等連携事業計画認定
2010年 道の駅滝宮でイチゴの観光農園を始める
所属団体
香川県青年農業士認定
IFK香川県農業青年グループ 理事
中讃農業後継者クラブ 副会長
アグリネット綾川育農部会部 会長
香川げんきネットSEED 副代表
写真
松本 稔 | まつもと みのる

まつもと農園

所在地
綾歌郡綾川町陶684-2
TEL 090-4970-4267/FAX 087-876-2298

MAIL:e_oyasai@ybb.ne.jp
代表者
松本 稔
従事者
松本 稔
松本 小百合(妻)
松本 定雄(父)
アルバイト 1名
パート    2名
研修生   1名
事業内容
施設野菜(キュウリ、トマト)
路地野菜(ほうれん草、小松菜)
水稲
いちご観光農園
確認日
2018.01.04

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