古さに潜むモダン直観 新ライフスタイル提案

グレースマーケットカフェスタイルハヅキ 代表取締役 木村 葉月さん

Interview

2012.06.07

ビビッと何かが震えた。ここが好きだと直感して北浜アリーに店を出した。花屋「グレースマーケット」を経営する木村葉月さん(38)は、ビジネスも結婚と同じように、直感で決めた。

最初の店が手狭で、隣の区画「NYギャラリー」へ移ったら客足が途絶えた。大好きな場所がさびれてきた。なぜこの場所なのか。何のために花屋をするのか。自分を問い詰めた。

8年たってやっとわかった。古い倉庫の情緒。「古さ」に潜む「モダンなオシャレ」。それが商売になると直感したのがこの場所だった。

「花と植物を通じて新しいライフスタイルを提案します」・・・木村さんの感性が経営理念になった。去年5月、オープンした「カフェスタイルハヅキ」に、お客さんが来てくれるようになった。長年の辛抱が知恵を生んだ。こんどの直観は、結婚式の新市場「1.5次会」をとらえた。

※北浜アリー
高松市北浜町にある古い倉庫を活用した複合商業施設。ギャラリー、ブティック、カフェレストラン、美容院、雑貨店などが並ぶ。

※1.5次会
結婚式の披露宴と二次会の中間形式のパーティ。披露宴ほど形式張らず、二次会ほどくだけたものではない特徴があり、レストランなどで会費を徴収して行われる。

お客さん来ない日が続く

北浜アリーは、古い倉庫街だった。高松港ウォーターフロントのトレンドスポットとして、2000年にオープンした。「あっ、ここが好き、ということだけで、付近に誰も住んでないのに、花屋を出すという無防備なことをしたんです」

開店の1年前に結婚した、夫の寿宏さん(43)も反対しなかった。「北浜アリーができた当時は、若者でにぎわったんです」

02年に出した店は、花屋の商売には手狭だ った。04年、南側にもう一画、ニューヨークのソーホー地区を参考にして古い倉庫を改修した複合商業施設「NYギャラリー」が出来たので、移転した。洋服屋、子供服屋、花屋、酒屋が出店した。

花とワインの贈答品セット

「酒屋さんが知り合いで、人を置いたら採算が取れないというので、酒販免許を持っていた私が、花と一緒にワインも売りました」

ところが区画が一つ違うだけで全くお客さんが来なかった。

インターネットなら場所の良し悪しは関係ない。花とワインをセットにして、贈答用で売り始めた。しかし時代が少し早かった。そんな人たちはまだ多くなかった。

「同業者が全国で3店舗しかなかったんです」。花屋の「グレースマーケット」と、花の先生と、酒屋だった。

酒屋に花はない。それを活けこむ技術やセンスもない。花の先生は、ワインも生花も在庫がない。プリザーブドの花がメインになるから、商品の種類が限定される。花とワインを扱う「グレースマーケット」の商品力が強みになった。 嵯峨御流(さがごりゅう)正教授やフラワー装飾技能士(2級)の資格を持つ木村さんは、技術と感性で、ワインにバラを組み合わせる。

「ロゼのワインにピンクのバラを、ラベルが黄色のシャンパンは同じ色の花をつかいます」。木村さんの手にかかると、ワインはブーケを胸に抱く花嫁のように輝く。

※プリザーブドの花
専用の溶液で加工された長時間保存することが出来る花。

※ブーケ
bouquet:フランス語。生花や造花の花束。

夫の給料で赤字補てん

「花とワイン」の贈答品が売れ始めた。グレースマーケットに、全国からお客さんが、訪れるようになった。通販業界の人も、同業の花屋さんも、旅行のついでに来た人もいた。

その頃、テナントが減って空店舗が目立つようになった。NYギャラリーのコンセプト、「芸術家の集まるカフェやギャラリー、ライブハウスが並ぶニューヨークのソーホー」のイメージは無くなった。

「がっかりしてお客さんが帰るんです。大好きな場所なのに、どんどんさびれていくのが悔しかったんです」。通販でそこそこ売れたが、寿宏さんの給料から店の赤字を補てんした。他にいい場所も資金もない。木村さんは悩んだ。

古い穀物倉庫に隠れた魅力

「なんで、ここで商売しているのか、他の花屋と何が違うのか」。誘われて入会した中小企業家同友会で、先輩たちの問いは厳しかった。

何も答えられなかった木村さんに、従業員が自分で書いた広告はがきを見せた。「独特の色合いで作った珍しい植物やシックなお花に囲まれた素敵な空間です。ラグジュアリーなアイテムをグレースマーケットよりお届け致します」。そのキャッチコピーで気づいた。

「そうや、ありきたりの花屋をするために、ここに店を出したんではない。感性が一番大事や。私の生きざまで、新しい価値観を提案するんや」

古い穀物倉庫のたたずまい。「古さ」に隠れている「モダンの魅力」。それを直感したからこの場所で花屋を始めた。

「花と植物」経営理念に

「花と植物を通じて新しいライフスタイルを提案します」・・・木村さんの感性が、8年かかって経営理念になった。

花屋の得意先、結婚式場で、木村さんは式のキャンセルを何度か経験した。当てにしていた親から費用が出ないので、予算が足りないという理由だった。

お金のかかる結婚式は、教会やレストランなど、多様化が進む。不況の影響もあるし、個性的なウエディングを望む声も強い。100人以上収容できるパーティ会場は、ホテルや結婚式場以外にあまりない。テナントが撤退して、「グレースマーケット」の隣が空いている。

結婚披露1.5次会市場に挑戦

去年5月、木村さんは、古い倉庫の「モダンなオシャレ」を活用して、1.5次会ができるカフェをオープンした。「普段はランチやディナーもありますが、130人は集まれます。音楽会やセミナー、結婚披露パーティに、使い方の自由な、新しいスタイルのカフェです」

読書で学びカフェ準備

木村さんは読書で学ぶ。サントリー宣伝部出身の芥川賞作家、開高健と、直木賞作家、山口瞳のコンビが綴ったサントリーの社史「やってみなはれみとくんなはれ」を読んだ。

「サントリーが売っているのはお酒ではない。文化です。ライフスタイルです。それは私が目指している物だったんです。すっかりサントリーのファンになりました」

花屋の木村さんは、飲食業は初めてだった。「サントリーに電話をしたら、地元の酒屋に手配してくれて、一気にカフェの準備が進みだしたんです」。ドリンクグラスを提供してくれたり、メニューを教えてくれたり、シェフも紹介してもらった。

夢ではない年商1億円

お客さんが来てくれるようになった。去年の5月から10カ月間で、カフェの売り上げは2500万円ほどになった。「花とワイン」のネット通販を入れると年商1億円も夢ではなくなった。

「ピンチの中で、粘り強くやっていると意外な知恵が出てくるんです」。読んだ本や、誰かが語った言葉が、思わぬヒントになった。

8年前、ビビッと感じて花屋をだした。辛抱が知恵を生んで、「1.5次会」市場をとらえた。

夫の貯金と父の老後の蓄え充当

木村さんは、神奈川の短大で園芸や花卉(かき)装飾を、京都の華道専門学校で華道を学んだ。卒業後は造園会社や花屋に勤め、26歳で結婚、1年後勤めを辞めて店を出した。「夫の両親に、経営する方が性に合っているといわれたんです」

資金は最初の店が700万円、「NYギャラリー」へ移った時500万円、合計1200万円は夫の貯金だった。

「いまも葬儀社に勤めていますが、当時はすごく給料がよかったんです。寝る暇もないほど働いて、結婚するまでに貯めていたお金を、私がぱっぱっと使ったんです」

花屋に勤めていた木村さんは、葬儀の花を配達に行って、寿宏さんと知り合った。「会った瞬間に運命を感じました。両親は反対でしたが、結婚するならこの人と決めました」

3店目の「カフェスタイルハヅキ」は1000万円かかった。「実家の父が出してくれました。8年間も赤字だったのに貸してくれたんです」

それは、農協へ勤めていた父の老後の蓄えだった。

木村 葉月 | きむら はづき

1973年 丸亀市生まれ
恵泉女学園短大園芸科卒業
京都の嵯峨華道専門学校修了後、
造園会社、花屋など勤務、
2002年、花屋を開店、04年グレースマーケット、
11年カフェスタイルハヅキをオープン
2009年 中小企業家同友会女性委員会委員長 就任
写真
木村 葉月 | きむら はづき

グレースマーケット カフェスタイルハヅキ

所在地
高松市北浜町12-7 NYギャラリー
TEL/FAX:087-811-4530
E-mail:flower@gracemarket.net
URL
http://www.gracemarket.net/
確認日
2018.01.04

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