「信頼」が生んだ金融ビジネスモデル ~東瀬戸内経済圏を見通した経営統合~

香川銀行 取締役頭取 トモニホールディングス 代表取締役会長 遠山 誠司さん

Interview

2012.01.05

地域経済圏を網羅する、新しい地域銀行のビジネスモデルをつくる・・・。一昨年4月、香川銀行と徳島銀行が経営統合して、共同持株会社「トモニホールディングス」(トモニHD)を設立した。

人口減少と少子高齢化の加速で疲弊する地方を支え、活性化する。そうしてこそ、第二地銀が勝ち残れる。

「企業でいちばん大事なことは継続です。でも、社会に貢献してこその銀行です。そのためのベストな、夢のある、成長のための選択です」。香川銀行頭取遠山誠司さん(64)は明快だ。

生い立ちも歩みも違う相手との統合に、課題は多かった。しかし、遠山さんと、信頼し合う徳島銀行の柿内愼市前頭取(現徳島銀行会長、トモニHD社長)は、揺るがなかった。

※共同持株会社
他の株式会社を支配する目的で、共同出資により設立され、その会社の株式を保有する会社。

※第二地銀
相互銀行が普通銀行へ転換してできた地域銀行。

「同じシステム」というメリット

預金と貸付けに加え、投資信託や保険など、金融商品の取り扱いが増えた銀行は、基幹システムの開発コストが重い負担になってきた。香川銀行も徳島銀行も旧来システムは日立製だった。

「2000年に入った頃、別に相談したわけでもないんですが、たまたま両方の銀行が、日立の外部委託提案を採用したんです」

02年、旧富士、第一勧業、日本興業の3行を統合して発足したみずほFGで、大規模なシステム障害が発生した。

このトラブルがきっかけで、同じ基幹システムなら対策も同時にできるというメリットが、共通認識になった。これが経営統合への大きな要件になった。 

「お互いのサブシステムを統合すれば、さらに収益力が高まります。二つの銀行の管理部門を一つにすると、人員の余力が生まれます」

遠山さんは、経営統合による「コストと人の効率化」で、地域銀行の成長戦略が描けると確信した。

※日立の提案
第二地銀向けアウトソーシングパッケージ。

お客様に迷惑をかけません

遠山さんは水面下で動き始めた。専務と常務の1人に理解を求め、徳島銀行との会議は、ホテルや休日に研修所で開いた。

企業の統合は痛みが伴う。「組織を縮小したり、ルールを相手に合わせたり・・・。でも、そんなことは私たちが甘んじて受け止めたらいいんです。しかし大切なことは、お客様に迷惑をおかけしないことです。銀行のわがままは許されません」

コンサルタントの指導は受けたが、経営統合のコンセプトは自ら決めた。「顧客との関係は何も変えない」を一番のテーマにした。

組織の苦悩

2人の頭取がやろうと決めても、組織の動きはもどかしい。遠山さんが「徳島を参考にして、こうしたらどうや」と言っても、話し合いには時間がかかった。

徳島側でも事情は同じだった。統合への調整は、最初はかみ合わなかったし、互いに譲らなかった。「徳島は、めんどいで・・・」、「香川は、がいなで・・・」。ついつい、相手側への悪口がもれてきた。「銀行名も変わらない、お客さんとの関係も変わらないのなら、なぜ・・・」という声も聞こえてきた。

遠山さんは双方の行員を気遣い、何度も念を押した。「どんな組織でも、新しいことをする時には、当然、抵抗や壁が次々出てきます。決して人の能力の問題ではありません」。そして、続けた。

「人は過去からやってきたことを、変えたがらないものなんです。現状認識や危機意識は、組織全体の状況や経営環境の変化を知っている者や、外部から客観的に見ることができる人に比べて、内部では断片的になりがちです」

「県域を越える、地域経済圏で、幅広くきめ細かく貢献できる銀行を目指そう。そのために、勝ち残り、成長する金融機関になろう。その第一歩は、互いを信頼し合い、腹を割って話し合える関係になることだ」。遠山さんはメッセージを送り続けた。

「こんなしんどいことを、もうやめようかと思いましたが、2人がここで投げ出せば、重い荷がもっと重くなって、次を担う人に経営統合は出来ないかもしれない」

2人がやらなかったらだれがやるのだ・・・大きな将来ビジョンに向かう決断者の覚悟だ。

ようやったのう

経営統合の大きな問題はまだある。香川銀行と徳島銀行から、トモニHDに一方的に変えられる株主の同意だ。「信頼」だけで、会社を一緒にするなら、上場企業の責任は果たせない。

「主な株主の、信託会社や銀行、保険会社などのトップから『よう決断したな』と言われました。金融全体を見渡してきた人たちは、理解してくれました」

先輩OBの意見も、気がかりだった。「記者発表した日の夕方、ある頭取経験者の方にご説明しましたら、『それしかないだろう』とおっしゃいました」

役員OBの大半は、歓迎とは言わないまでも、理解を示してくれた。徳島銀行の関係者も同じだったという。

成長戦略

トモニHDは基本戦略の筆頭に、「より高い成長戦略の実現」を掲げた。「経営統合でコストと人が効率化できますから、生まれた余力を成長分野に投入します」

去年の11月、両銀行は大阪で、それぞれ新しい支店を開設した。「これでこちらは3カ所、あちらは6カ所、9つの支店をネットワークして、最良の金融サービスを提供します」

香川銀行は岡山に8カ所、徳島銀行は神戸に1カ所支店がある。「今後、手薄な兵庫県へ出店すれば、香川、徳島、大阪、兵庫、岡山の『東瀬戸内経済圏』という広い市場で、成長戦略を具体化できます」

6年間、遠山さんと柿内さんが思い描いてきた、新しい地域銀行のビジネスモデルだ。

「信頼」が仲人

「新聞に、『夫婦別姓が企業同士で起こった』と書かれましたが、まさにそうです。名前は別々ですが、香川銀行と徳島銀行は一心同体です」

継続こそ企業の使命だ。そのために収益力をあげたり、ロスを削除したり、負の遺産を削ったり、人材教育をしたり・・・。あらゆる手段と努力を惜しまない。

「トモニHDは、僕が頭取になっていなかったら、柿内さんが頭取になっていなかったら、誕生していなかったかも知れません。トモニの成長戦略は、信頼を元に着実に進めます」

遠山さんは、大きな将来を見据えるように、目を見開いた。

やんちゃで憎めないやつ

「夜討ち朝駆けで、債権の取り立てをさせられて、上司を憎いと思ったことがある」。「ナンバーワンの取引先の融資を打ち切って、ののしられたこともある」。遠山さんは、支店長になった時の話を続けた。「香川銀行に感謝しました。『こんな人間をよく支店長にしてくれたなあ』と・・・。目標は、何が何でもクリアしようと決意したんです」

銀行内外に多い〝遠山ファン〟から聞き込んだ人物像は・・・気さくで話しやすい。顧客であろうと、上司であろうと、意見は歯に衣を着せず直言する。酒は一滴も飲めないが、宴席でも聞き上手。融資は、納得するまで徹底的に、必ず自分で確認する。顧客の意見をとことん聞いて経営改善や、立て直しまで踏み込む。リスクは自分で背負う・・・。

よく知る銀行OBは、楽しそうに明かしてくれた。

「頭はシャープ。自ら手を上げて大手銀行で外為を徹底的に勉強した。屈託のない顔をしているが、若い時から、銀行でこれから何が必要かをちゃんと考えていた、したたかな戦略家だよ。新しいアイデアを、ビジネスチャンスと考える、どん欲さと行動力があった。それでいて、周囲を笑わせながら仕事を楽しみ、やんちゃもする、そんな憎めないやつだよ・・・」

遠山 誠司 | とおやま せいじ

1947年 高松市生まれ
1970年 関西学院大学卒業
    香川相互銀行(現香川銀行)入行
1985年 長尾支店長
2002年 専務取締役総合企画本部長
2003年 取締役頭取コンプライアンス統括部担当
2005年 取締役頭取業務監査部担当
2006年 取締役頭取(現職)
写真
遠山 誠司 | とおやま せいじ

トモニホールディングス株式会社

住所
香川県高松市亀井町7番地1
代表電話番号
087-812-0102
設立
2010年4月1日
社員数
100人(銀行子会社兼任者80人含む。2019年3月31日現在)
事業内容
銀行その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理及びこれに付帯関連する一切の業務
代表者
代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者) 中村 武
代表取締役副社長 山田 径男
         板東 豊彦
資本金
250億円
地図
URL
http://www.tomony-hd.co.jp
確認日
2020.10.01

株式会社香川銀行

住所
香川県高松市亀井町6番地1
代表電話番号
087・861・3121
設立
1943年2月1日(香川無尽株式会社)
資本金
120億円
総資産
1兆7549億円
自己資本比率
9.21%
店舗数
88店舗(本支店82、出張所6)
地図
URL
http://www.kagawabank.co.jp/
確認日
2020.09.24

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