おむすび山の秘密

香川大学創造工学部長 教授 長谷川 修一

column

2019.05.16

県外の人からよく「昔話に出てくるような山がある」といわれます。確かに、備讃瀬戸の航路から讃岐平野を見ると、いたるところに円錐形のおむすび山が立っています。その代表は飯野山(讃岐富士)。また、屋島や大麻山・象頭山のように細長いテーブル状の山は、船の進路に合わせて、形を刻々と変えていきます。

屋島は、風化した花崗岩(マサ)を土台にして、山頂部にほぼ水平に分布する硬い安山岩溶岩層が、山頂の平らな土地と崖を作っています。このような地形はメサと呼ばれ、屋島は典型的なメサとして国の天然記念物に指定されています。

また、メサが削られた結果、わずかに山頂に安山岩が残った小山をビュートと呼びます。ビュートは三豊市の朝日山など、ごくわずかしかありません。メサの安山岩はたとえるなら消しゴム付き鉛筆の消しゴム部分に相当し、削られてしまうと(使い切ると)、元の形は残りません。

これに対して、飯野山のようなおむすび山は、硬い安山岩が鉛筆の芯のように花崗岩(鉛筆の木の部分)を貫いています。火山岩頸は、鉛筆の芯があるので、削られても円錐形の形を保つことができます。

香川の里山をつくっている安山岩は、約1400万年前の瀬戸内火山活動によるマグマからできています。このときマグマを供給した通路(火道)で冷え固まった安山岩(サヌカイトとサヌカイトによく似たサヌキトイド)がおむすび山のもとを、また地表の噴出した安山岩溶岩が谷を埋め立ててメサのもとをつくりました。

安山岩マグマを供給した火山活動は約100万年間しか続かず、その後1350万年以上の期間、削られて削られておむすび山とメサができあがったのです。讃岐のおむすび山は、形こそ富士山と似ていますが、火山ではありません。

太古の激しい火山活動とその後の侵食が、讃岐平野と備讃瀬戸の独特の景観をつくりました。2019年、世界から注目されている瀬戸内国際芸術祭は、1400万年にわたる自然の造形美を舞台にしています。

長谷川 修一 | はせがわ しゅういち

1955年 島根県生まれ
1974年 愛光高校 卒業
1978年 東京大学理学部地学科 卒業
1980年 東京大学大学院理学系研究科修士課程
    (地質学専門課程) 修了
    四国電力 入社
2000年 四国電力 退職
    香川大学工学部助教授
2002年 香川大学工学部教授
2017年 香川大学工学部長
2018年 香川大学創造工学部長

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