モニタリングの知見を生かし
地域と「顔の見える対話」を

日本銀行 高松支店長 稲村 保成さん

Interview

2025.08.21

東京生まれ東京育ち。法学部に在籍していた大学時代、海外留学奨学金を得て米ハーバード大へ1年間留学し、トップレベルの学生たちと机を並べる刺激的な日々を送った。折しもヨーロッパでは欧州連合の通貨統合が進んでいた頃で、加盟各国の金融情勢や通貨をユーロに集約してゆく過程を学ぶうち、法学以上に金融経済を面白く感じるようになったという。

1997年に帰国してみると、日本は金融危機の渦中にあり、「貸し渋り」が社会問題化していた。そんな背景もあいまって金融経済に対する興味がさらに高まり、日本銀行への入行につながった。「就職面接の中でも、日銀は特に厳しかった覚えがあります。ここなら自分を育ててくれるに違いない、と感じました」

経験をフル動員した コロナ禍の市場分析

今年6月、高松支店長に就任。越し方については、「金融市場局・金融機構局を中心に、3分の2は金融市場や金融機関のモニタリング業務に従事してきました」と総括する。

入行後半年の研修期間を経て、キャリアは金融市場局からスタート。従来は一律だった日本銀行の適格担保の掛目をリスク量別に見直す案件を担当したり、当時急速に発展を遂げていた日本の債券レポ市場や証券化市場の調査に当たったりと、入行早々からさまざまな金融市場の分析業務に携わった。

金融機構局では、日銀の当座預金取引の相手先である金融機関に立ち入り、経営実態の把握や各種のリスク管理体制の点検を行う考査業務の対大手行チームに在籍したのち、2007年から金融システムレポートを作成する部署へ。時代はリーマンショックの直前、米国ではサブプライムの証券化問題、日本ではマンションバブルのリスクに注目が高まっていた。「金融市場局での分析経験が、ここでもしっかり生きました。考査業務で学んだのがミクロ視点とすれば、マクロ視点を学んだのが金融システムレポートの業務です」

バーゼルⅡ規制見直しへの参画を経て、国際局で海外の市場動向・実体経済の分析、業務局では、日銀ネットの大規模更改に関するユーザー側でのプロジェクトのマネジメントと、経験の幅を広げる。特に業務局での仕事はそれまであまり経験のなかった分野だが、ここで学んだことは、その後2020年に、不正操作事件を受けたLIBORの恒久的な公表停止に対応する「日本円金利指標に関する検討委員会」の事務局取りまとめとして、LIBOR移行計画に携わっていく上で大きく寄与した。

「コネクティング・ザ・ドッツ(点と点をつなぐ)、というスティーブ・ジョブズの言葉があります。私自身、一見関係なさそうなこともいつかどこかでつながっていくのだと実感したきっかけが、業務局での経験がかなり後になってLIBOR移行対応に生きたことでした。それは私の指針となり、人事課長を務めていた時は、周囲に向けても『選り好みせず仕事をしよう』とよく呼びかけたものです」

二度目の金融機構局は2014年。ここでは地域金融機関のモニタリング業務に2年間従事し、人口減少と地域金融をテーマにした金融システムレポート別冊第1号の作成も担当した。さらに18年、二度目の金融市場局で内外金融市場分析の取りまとめを担当。20年3月頃から世間ではコロナ禍が猛威を振るい始め、国際金融市場が大きく不安定化した中で、なぜか安全資産である国債が売りに出される異例の事態に陥っていた。「教科書通りにはいかない市場動向を分析する責任者として、これまでの経験と金融知識をフル動員するのは今だと思いました。使命感あふれる若手に支えられ、大変だけれど非常に面白くもあった仕事です」

若手の新鮮なまなざしから 学びを得ることも

高松支店長として重視するのは「偏りなくコミュニケーションをすること」。業種や規模にかかわらず幅広い企業・金融機関との対話を望み、特に直接顔を見て話すことを重視する。「オンラインチャットなどは便利ですが、フェイス・トゥ・フェイスで得られる情報の豊かさには敵いません」と語り、その姿勢は支店の職員に対しても変わらない。50人弱の行員とも、なるべく直接コミュニケーションをとろうと心掛けている。「経験や年齢が異なるせいで相手に伝わらないなら、それはこちらの伝え方が悪いと思いたい。固定観念にとらわれていない若い人たちは、むしろ新鮮な気づきをもたらしてくれるから、私自身も若さを保てます」

帰宅すると「まず最初にその日の気分に合った曲をかける」というほどの音楽好き。「高松のまちには、芸術や音楽が草の根的に息づいていると感じます。そういうまちで路地を歩きながら、好きな音楽を鳴らして散歩をするのが、今の楽しみです」
2016年、瀬戸内国際芸術祭期間中に娘と直島へ

2016年、瀬戸内国際芸術祭期間中に娘と直島へ

戸塚 愛野

稲村 保成 | いなむら やすなり

略歴
1974年 東京都生まれ
1999年 一橋大学法学部 卒
    日本銀行 入行
2011年 同 国際局 企画役
2012年 同 業務局 企画役
2014年 同 金融機構局 企画役
2016年 同 総務人事局 企画役
2018年 同 金融市場局 企画役
2020年 同 同 市場企画課長
2021年 同 総務人事局 人事課長
2023年 同 金融機構局 金融第1課長
2024年 同 同 総務課長
2025年 同 高松支店長

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