諸機関と柔軟に連携し
四国の中小企業に寄り添う

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部長 田中 学さん

Interview

2025.08.21

大学を卒業後、工業団地の開発等をしていた地域振興整備公団(当時)で企業誘致などを担当。2004年の組織統合に当たって、キャリアの選択肢は「中小機構」「UR都市機構」の2つがあった。そこで思いをはせたのは、公団で工業団地の販売担当として中小企業の経営者と接したこと。「地域に根差す中小企業の振興はとても大事。そういう会社をこそ応援したいと思って、中小機構を選びました」。事業承継を軸に中小企業経営に寄り添ってきたキャリアを生かし、今春からは四国で本部長として采配を振るう。

ふるさと福島で直面した 被災後の経営者の苦悩

中小機構では、高度化融資などを経験したのち事業承継の担当に。次世代へ事業をつないでいく重要性を経営者向けに啓発する日々を送っていたが、2011年3月、大きな転機を迎える。東日本大震災だ。

福島県生まれの田中さんにとって、被災地はふるさとでもある。中小機構の相談窓口を開設するため福島に入ったのは5月。まだ災害の爪跡も生々しく、文字通りのどん底を味わっている地元の事業者に向けて、何とか現状を脱し前向きになってもらおうと手を差し伸べる立場だった。

しかしいくら寄り添いたくとも、窓口を開設したばかりで十分な体制が整わず、地域の商工会などと連携しながら支援情報を届けるのが精一杯。商店街をはじめとする中小経営者の話にひたすら耳を傾けつつ、やり場のない激情を受け止めることしかできないもどかしさや、時には差し伸べた手がついに届かなかった無力感も噛みしめた。「私の人生を変えた2年間でした」と振り返る言葉には、万感の思いが込もる。

多彩な支援プログラムで 四国の課題解決に貢献

その後は東京本部と金沢や名古屋などの地方主要都市拠点を行き来しつつキャリアを磨き、24年に事業承継・再生支援部長に。今年4月から、四国本部長に着任した。

四国エリアでの支援は「全国平均に比べて小規模事業者が多い傾向にあり、そこへ向けた発信が重点項目」ととらえている。事業承継はもちろんITやDX化の推進、福島での経験を踏まえて南海トラフ地震への備えなども重視したい構えだ。

着任から3カ月、地域の経営者との対話を重ねる中で、「社会的な課題でもある人手不足を、うまく解消している例が多い」と気づいた。「地域に深く根差していて口コミで人が集まったり、海外の優秀人材を積極的に活用したりと、経営者の考え方次第でできることはいろいろあります。成功例のノウハウを地域の課題解決に結びつけ、企業の挑戦をサポートしていきたい」。機構の網羅的な支援プログラムを柔軟に組み合わせ、香川の産官ネットワークと相互補完的に連携しながら、地域の真なる課題に向き合いたいと意気込む。

「そうした連携のシナプスを維持・拡大していくのは、AI全盛時代にあっても、人だからこそできることだと思っています」と語る通り、現場で実践に当たる人材の育成にも力を入れている。「過去事例の研究も深めながら、スタッフ一人一人が場数を踏み、経験を高められる機会を創出するのが私の役目です」

長いキャリアの中で、瀬戸内海を超えるのは今回が初めて。趣味のスキーが毎冬の楽しみだが、今年は地域の祭りなどにも積極的に足を運ぶつもりだという。「せっかく四国にいるのだから、この土地ならではの魅力をたっぷり味わいたいですね」と笑顔で語った。

戸塚 愛野

田中 学 | たなか まなぶ

略歴
1966年 福島県生まれ
1990年 日本大学法学部 卒
地域振興整備公団 入団
2004年 中小企業基盤整備機構に組織統合
2018年 同 北陸本部 企業支援課長
2020年 同 中部本部 企業支援部長
2024年 同 事業承継・再生支援部長
2025年 同 四国本部長

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