まち全体を一つの「宿」に見立て
古民家を核に日常風景の魅力を発信
NIO YOSUGA 代表取締役 竹内 哲也さん/菅組 社長 菅 徹夫さん
2025.08.21

菅さんと竹内さん。建物は明治時代の古民家を再生した宿泊棟「小倉屋」
2025年6月、三豊市仁尾町の古民家などを拠点とする『NIPPONIA仁尾 水鏡(みかがみ)の町』が誕生した。NIPPONIAの中では最も新しく、四国では愛媛県大洲市に続く2カ所目、香川県では初となる。訪れた宿泊客が地元住民と交流し、地域資源を活用しながらまちを維持していく、自然な循環が生まれつつある。
宿泊棟として、江戸~明治期の古民家を改修した3棟と、父母ヶ浜を望む新築1棟で計6室を展開中。古民家の1棟「多喜屋」がフロント機能を兼ね、宿泊客はまずここでチェックインを済ませてから、まちを歩いてそれぞれの棟へ向かう。
古い建物は元の姿を生かして昔の生活の気配を残しつつ、洗練された雰囲気にリノベーション。インテリアや寝具のセレクトにこだわる一方、どの客室もテレビや時計は敢えて置かず、ゆったり流れる仁尾の時間そのものを味わう空間とする。キッチン付きの棟もあるが、食事は基本的に近隣の飲食店で特別メニューを提供。各部屋のミニバーに置くドリンク類も、地元商店から仕入れたものを用意するなど、地域と深く連携する運営スタイルが特徴だ。
「希望する方には、チェックイン時に無料のまちあるきをご案内しています」と、運営を担当するNIO YOSUGA代表取締役の竹内哲也さん。自身が案内に立つことも多く、聞き手の興味関心に合わせて臨機応変に目の前の風景をひもとく巧みなガイドぶりが好評だ。「風光明媚な場所は全国にたくさんありますが、私たちが大切にしたいのは、地域の人が商店で買い物をしていたり、子どもが駆け回ったりする、『人が動く仁尾の日常風景』です。『お部屋の飲み物はこのお店から仕入れてるんです』『ここのパンは絶品ですよ』といった情報を織り交ぜ、まちの人たちともふれあいながら、地域と循環する滞在を楽しんでほしい」と思いを語る。
リノベーションを手掛けたのは、仁尾に本社を置き、宮大工をルーツに持つ自社大工たちの高い建築技術を強みとする菅組。代表取締役社長の菅徹夫さんは、古民家再生を核とする地域の古い町並みの維持と復興に意欲的で、NIPPONIAのまちづくりの考え方にも以前から共感していたという。
「古い建築は先人の遺産ととらえています。優れた建物を残したい思いはあっても、当社だけの力ではなかなか実現できませんでしたから、NIPPONIAとのご縁は大きなチャンス。単なる修復にとどまらず、そこからのつながり・広がりを意識して発注側に立つのは、当社にとっても初の試みです」と意気込む。
古民家改修には手きざみをはじめとする大工の手仕事が不可欠で、寺社建築なども数多く手掛ける同社の施工力がいかんなく発揮されるところだ。高い知見に裏打ちされ、建物の価値を守るリノベーションで、完成後の宿泊棟を見学した元の持ち主からは「以前のままの姿で残ってうれしい」といった声も寄せられた。
台湾のライフスタイル誌に掲載されるなど、海外の注目も集めつつある『水鏡の町』。
宿泊客をまちぐるみで迎え、仁尾らしい価値を伝える滞在スタイルを、竹内さんは「田舎の実家に帰るような感覚」と表現する。特に大都市に生まれ育った人たちを惹きつけ、建築好きや地域おこしに興味がある人などを中心に、リピーターも多い。「仁尾っていいな、と思っていただけるかどうかは、私たちの伝え方次第。今後海外からの宿泊客が増えてくるとすれば、言語サポートの強化が鍵になるでしょう」と、課題も意識している。
一方、菅さんは「まちの象徴となるような建物をいつか手掛けたい」という思いを温めている。修復しようとした建物のシロアリ被害がひどく、泣く泣く諦めたこともあるが、仁尾エリアにはまだまだ魅力的な古民家も多い。「いい建物を、動く風景として残す。それを建築の専門家としてしっかりバックアップするのが当社の役割です」
訪れる人の増加とともに新しい飲食店なども増えて、少しずつ充実してきた仁尾のまち。これからも決して変化を急がず、ゆるやかに活気づこうとしている。

客室の雰囲気。香川漆器などもさりげなく取り入れている

戸塚 愛野
NIO YOSUGA 株式会社
- 住所
- 香川県三豊市仁尾町仁尾丁312番地
- 代表電話番号
- 0875-24-8490
- 設立
- 2021年12月
- 事業内容
- 三豊の暮らし文化継続を目的とした不動産開発、コンサルティング、施設運営事業
- 地図
- URL
- https://nipponia-nio.jp/
- 確認日
- 2025.08.21
株式会社 菅組
- 住所
- 香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1
- 代表電話番号
- 0875-82-2441
- 設立
- 1909年10月5日創業
- 社員数
- 156名(技能者29名含む)(2024年10月現在)
- 事業内容
- 建築工事
(病院/社屋/工場/店舗/学校/文化施設/商業施設/社会福祉施設/社寺/住宅/リフォーム工事他)
土木工事・一級建築士事務所
不動産事業・古材事業 - 資本金
- 7500万円
- 地図
- URL
- http://www.suga-ac.co.jp/
- 確認日
- 2025.08.21
おすすめ記事
-
2025.01.30
宮大工のDNAを受け継ぐ
株式会社菅組
-
2024.06.18
菅組本社に社員の休憩室がオープン
菅組
-
2023.06.15
好きなことをとことん追求できる無二の場所
山口 宏己(やまぐち・ひろみ)さん/株式会社菅組 棟梁
-
2022.07.21
「いい建築」を通して、風景をつくり暮らしを支える
菅組
-
2020.12.03
建築の力でつくる「風景」と「縁」
菅組 社長 菅 徹夫さん
-
2009.11.19
変わるべきものと、変えてはいけないものがある。普遍的なものを大切にしたい。
菅組 代表取締役社長 菅 徹夫さん
-
2025.02.06
若者が集まるまちの先進例
原動力は「楽しむ」こと!さぬき市津田地区まちづくり協議会 理事 安芸 青児さん
-
2024.10.17
繋がるヒト・コト・モノ… 駅から始まるまちづくり
JR四国 社長 四之宮 和幸 さん
-
2023.05.04
不動産のノウハウを生かし坂出を元気に
地域活性・スタートアップ支援事業/株式会社レッツ
-
2023.04.06
よみがえる田園都市国家
著:佐藤 光/筑摩書房
-
2022.10.20
ウォーカブルシティ入門
著:ジェフ・スペック/学芸出版社
最新紙面情報
Vol.412 2025年08月21日号
「ここに来て良かった」 生徒一人一人に寄り添って
学校法人村上学園 理事長 村上学園高等学校 校長 村上 太さん
モニタリングの知見を生かし 地域と「顔の見える対話」を
日本銀行 高松支店長 稲村 保成さん
諸機関と柔軟に連携し 四国の中小企業に寄り添う
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部長 田中 学さん
まち全体を一つの「宿」に見立て 古民家を核に日常風景の魅力を発信
NIO YOSUGA 代表取締役 竹内 哲也さん/菅組 社長 菅 徹夫さん
生徒の「やってみたい」が地域とつながる 進化するボランティア団体「TSUNAGU」
大手前丸亀中学・高等学校