ウォーカブルシティ入門

著:ジェフ・スペック/学芸出版社

column

2022.10.20

ちょっと考えてみて下さい。私たちにとって住みよいまちとはどんなまちでしょう。この本の著者は歩きたくなるまちづくりを提案します。世界の都市の課題である市街地の衰退、健康や環境の問題の解決の道はここにあるといいます。車社会といわれるアメリカにおいても、ニューヨークのタイムズスクエアなどは歩行者のための空間と化しているようですし、車が中心だったニューヨークの街なかでは今や、オープンスペースはお店や自転車レーンで溢れており、歩行者と自転車が主役のまちに変貌しているようです。

そういったアメリカの動きは、日本国内でもコンパクトシティやソフトシティなどの考え方が導入され、まちづくりが見直されています。歩行者中心の街路設計マニュアルを紹介した「アーバンストリート・デザインガイド」や人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘いを描いた「ストリートファイト」などの本も出ていますので興味のある人は読んでみてください。

ただし著者は、今回紹介する本の最初にこう断っています。「最近の都市に関する議論の問題点は、都市づくりの方向性と実際に都市づくりを進めている人たちとの間に断絶があることだ」と。かつてジェイン・ジェイコブズが著書「アメリカ大都市の死と生」で当時の都市プランナーに勝利したものの、いまだにアメリカでも都市プランナーは住みやすい都市を計画できていないと言います。

ウォーカビリティには「利便性が高い」、「安全である」、「快適である」、「楽しい」の4つの条件が必要で、どれか一つでは歩行者の支持は得られません。アメリカのほとんどの都市が事実上、都市計画で自動車のスムーズな通行と十分に確保された駐車場を優先させた結果、車で行きやすいが、行く価値のない場所に変貌させたと著者は嘆いています。この日本でも、わざわざ早朝や夜間にウォーキングの時間を取らなくても、日常生活の中で、もっと楽しく安全に歩いて過ごせるまちづくりをしてほしいと思います。これは決して健康だけの問題ではないと思います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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