よみがえる田園都市国家

著:佐藤 光/筑摩書房

column

2023.04.06

私が生きている間には、おそらくもう経験することはないであろう、東日本大震災や原発事故、コロナ禍、さらにはロシアのウクライナ侵攻。一方で心の中のどこかに、また別の顔をもった災厄がやって来ないかという不安があるのも事実です。そして世の中がひっくり返るような大きな出来事があると、それは従来のやり方を見直す、大きなチャンスにもなります。臆病なせいで、私たちはそのチャンスを逃しかけているのかも知れません。

今回紹介する本の副題に大平正芳、E・ハワード、柳田国男の構想とあります。著者は三者に光を当てて「人間的で文化的な長期的国家ビジョン」を考えて行きます。1980年、当時の大平正芳首相の肝いりで作成された「田園都市国家の構想」はいろんな文献で目にすることも多く、40年たった今でも評価されています。この本でも「昨年末に岸田政権で閣議決定されたデジタル都市国家構想総合戦略よりはるかに豊かな内容が含まれている」とあります。さらに「大平構想には、科学技術、政治、経済、人間、家族、地域、地方、自然、文化などにわたる、二十一世紀日本を論ずるのに必要なほとんどすべての要素が、萌芽的な形にせよ含まれている」、さらに重要なのは構想に豊穣な哲学が込められているといいます。

盟友田中角栄に比べれば、お世辞にも演説がうまかったとは言えませんでしたが、あー、うー、をのけて原稿に起こせば一番筋が通って内容があったといいます。ものすごい読書家で哲人宰相と呼ばれていました。その構想の原点となったハワードの田園都市構想、それを発展させた柳田国男による知られざる日本独自の分権的田園都市構想にも本書は触れていますが、紙幅の関係で紹介できません。

大平構想にある家庭や地域コミュニティ、自然や文化の回復、そして国家と都市、地方が調和して発展するというビジョンを二十一世紀に再生させる仕事は、二十一世紀に生きる私たちの大きな宿題だと思います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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