日本の物流問題-流通の危機と進化を読みとく

著:野口 智雄/筑摩書房

column

2024.06.06

以前から新聞、テレビなどで繰り返し報道されていました「物流の2024年問題」ですが、ついにこの4月1日から今まで働き方改革関連法の適用が猶予されていた運送業などにもこの法律が適用され、それに伴い総労働時間規制により、時間外労働が年間960時間に制限されます。今まで時間外労働に頼っていたドライバーの報酬は減り、物流業界から離職者が増えるといいます。その結果人手不足がさらに深刻化し、運送会社は減車せざるを得なくなり、業績悪化で倒産する会社が続出して物流は滞り、迅速な配達が出来なくなり料金も高騰するというシナリオが報道されています。あるシンクタンクの予測によると2030年には荷物の3割が配達出来なくなるともいわれています。

著者によると、宅配便の取扱個数は2022年についに50億個の大台を超え、2000年比で実に95.4%増加したということです。一方で個数ではなく量、つまり積載量に輸送距離をかけた国内貨物の輸送量はどうなっているかといいますと、同期間比で逆に27.5%減になっているそうです。またトラックに積む貨物の積載率の変化は2000年の43.7%から2022年は36.5%へと大きく低下しています。トラックの荷台の中身は荷物が4割弱、6割あまりは空気を運んでいるなどと揶揄されており、効率面でも経年劣化が進んでいると述べます。もちろん積載率の改善は必要ですが、著者はこの数字の奥にこそ物流の現代化を阻害する真の災厄が潜んでいるといいます。

2024問題で物流業界には大きなスポットライトが当たっていますが、それは変わるための大きなチャンスでもあるということでもあり、それをどのような方法で乗り切るかを著者はAI物流、ドローン配送、ロボット化、自動運転など今起こっている様々な技術変革の波を説明しています。概説書としてとても分かりやすく書かれた本だと思います。一方で消費者の立場から見ると、運賃の値上げや宅配便の再配達の有料化の動きが出てきていますが、賛成や反対以前に街なかで宅配業の人たちの忙しそうな姿を見るにつけ、誰かの犠牲の上に立って、あまり急いでいない荷物をそんなに速くせかして配達してもらう意味はあるのかなとも思ってしまいます。

宮脇書店 総本店 店長 山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ