いつも、そばに

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫

column

2025.01.03

「体」という漢字はご存知のとおり、にんべんに本と書きます。勝手に解釈すると、人のそばにはいつも本があるということです。人間が紙に書かれた文を読むようになったのはいつ頃でしょう。先日放送が終了した「光る君へ」では、紫式部が源氏物語を一枚一枚、紙に筆で書き綴じたものを藤原道長が読むシーンが何度も出てきました。やがて印刷技術が発明され、本が大量に作られる時代がやってきました。以来紙でできた本はずっと人と共にありました。

そして現在です。インターネットの登場は間違いなく印刷技術の発明以上、恐らくはそれ以上の影響を私たちにもたらしています。全国の読書世論調査で紙の本を読んだ人の割合が史上最低の数字を記録したといったことだけではなく、もっと根源的なところから変化が起きていて、人間の在り方や考え方を変えてしまうような事が起こってしまうのではないかと思ってしまいます。

どちらが良いかはともかく、紙の本で読むのとパソコンやスマホで読むのとは明らかに違いがあります。技術が変わると人の心の動きも変わり、インターネットは全く新しい局面を開いたと言われます。生まれた時からこの環境の中で育っていくこれからの世代には何が待っているのでしょうか。それを見ることも多分できない私の世代の人間には不安もありますが、もちろん希望もあります。

昭和の人間の世迷いごとかもしれませんが、広く、深く、そして時間も空間も跳び越えて想像力を拡大していくための道具は、今のところ紙の本が最も効率的ではないでしょうか。紙の本が読まれなくなったとはいえ、まだ世の中には本が溢れかえっています。どうぞ好きな本を本屋の店頭で探し出して、それを手に取ってみて下さい。

「書物の森が水源だとしたら、そこから賢く、自分にほんとうに必要なだけの、水をもらうことにしよう。ゆきつく先が海だとしたら、そこにささやかな、ありあわせの素材で作った小舟を浮かべてみよう。驚くべきことに、僕らはこの小船に乗って、はてしなく広がる大洋へと出発することができるのだ。そして大洋にはたくさんの本の島が点在し、島にさしかかるたび、古い友達や知らない島人たちが、海岸から手を振ってくれる」(菅啓次郎)

長い間このコーナーで駄文を書かせて頂きましたが、今回が最終となりました。本当にありがとうございました。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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