
多くの企業が、有形、無形の「ものづくり」から始まり、匠(職人)や、これをまとめる匠長(多くは経営者)の存在があって継続、成長し、宮大工棟梁の西岡常一氏によって語り下ろされた書「木に学べ」にあるように、「百工あれば百念あり、これをひとつに統(す)ぶる。これ匠長の器量なり。百論一つに止まる、これ正なり」という口伝のごとく、事業を守ってきたのである。
こうした匠長のいる事業者によって明治以降の日本の資本主義が確立していく過程で、昭和のはじめ、折からの金融不安や関東大震災(1923年)の混乱等から、鈴木商店の倒産、台湾銀行の休業等をはじめ中小銀行の淘汰が進み、信用収縮により資金繰りに困った中小企業者が増大した。こうした状況下で、地方自治体(大阪府が最初)が地域経済を守るため、匠長たちを救う資金繰り支援策として創設したのが銀行への損失補償制度であった。これから信用保証協会(東京市が最初)が生まれ、その後、国の制度と相まって、現在の信用補完制度となり、順次、整備・改善されてきた。これにより、中小企業の金融の円滑化が図られており、コロナ禍でのゼロゼロ融資にも繋がっている。
ただ時代は変わり、高度成長期を支えてきた団塊の世代も75歳以上となり、生産年齢人口は急減している。守るというだけではなく、次の100年を支える匠や匠長を創り、育てる観点での施策が重要となっている。労働力は機械化や外国人などで補えても、それを使いこなす匠長は必要である。匠を確保できなければ、匠長もいなくなり、いずれ成長が止まる。こうした人材、後継者不在の影響を特に受けるのが中小企業ではないだろうか。
融資や信用保証の面では、既に経済危機、災害等だけでなく、事業承継や創業チャレンジ、M&Aへの対応メニュー等に拡大しており、また中小企業の支援機関同士や支援機関と金融機関等との連携も進んでいるが、これから一層、匠長づくりの視点を重視した支援をすべきだろうと思っている。
香川県信用保証協会 会長 西原 義一
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