足元の不安を取り除き “歩く喜び”を届ける

徳武産業 社長 德武 聖子 さん

Interview

2024.10.03

徳武産業本社に隣接する「あゆみシューズ」直営店=さぬき市大川町富田西

徳武産業本社に隣接する「あゆみシューズ」直営店=さぬき市大川町富田西

常識覆す「片方のみ」「左右サイズ違い」

高齢者や体が不自由な人向けのケアシューズ販売で、徳武産業は全国トップシェアを誇る。看板商品の「あゆみシューズ」は来年で発売から30年。これまでに実に2000万足以上を販売してきた。「長く愛してもらい、本当にありがたいです」。社長の德武聖子さんは頬を緩める。

長く愛され続けてきた理由。それは「徹底的に利用者目線に立った商品づくりと、常識にとらわれないことだと思います」

「あゆみシューズ」は、元々OEM事業を営んでいた德武さんの父・十河孝男さん(現徳武産業会長)と母・ヒロ子さん(同副会長)が二人三脚で生み出した。老人ホームの園長を務める幼なじみから「お年寄りがよく転ぶので心配だ。“転びにくい靴”をつくってもらえないか」と持ちかけられたのがきっかけだった。

福祉施設の利用者500人以上から歩行についての悩みを聞いたり、歩く様子を観察したり……試行錯誤の末に開発された「あゆみシューズ」には、つま先の適度な反り返りや、サイズを簡単に調節できるベルトなど、つまずいたり靴が脱げたりして転ばないよう、様々な工夫が施されている。
「あゆみシューズ」ベルト縫製の様子

「あゆみシューズ」ベルト縫製の様子

最大の特徴は、靴を“片方のみ”や“左右サイズ違い”で販売したことだと德武さんは強調する。「年齢を重ねるにつれ、左右で足のむくみや変形の度合いが異なったり、股関節の手術などで脚の長さが違ったりする人もいます」

靴は“同じサイズのものがペアになっているのが当たり前”とされる。当時は「業界の常識では考えられない」「無謀だ」と非難もされた。でも、「今では“片方”と“サイズ違い”が売上の4分の1を占めます。常識にとらわれず利用者の声に応えた両親の判断は間違っていませんでした」

靴底の高さや足幅の調整など、利用者一人一人に合わせて安価でカスタマイズする“常識破り”な「パーツオーダーシステム」も好評だ。

社員を光り輝かせるために

社長に就いたのは2019年。ヒット商品を生んだ両親から会社を引き継ぐのは、不安もプレッシャーも大きかった。「父のようなことも母のようなことも私にはできない。じゃあ、私にできることって何だろう……」

そんな時に思い浮かんだのが子どもの顔だった。德武さんは6人の子どもを持つ母親でもある。「それぞれに個性があって、やりたいことも違う。同じ親から生まれても、こんなにも違うのか……」。自分のやるべきことが見えた瞬間だった。「会社には特徴も性格も違う様々な社員がいる。それぞれの良いところを最大限引き伸ばして光り輝かせる。そんな環境をつくるのが私の役目だと思ったんです」

徳武産業の社員は約7割が女性。自身の子育ての経験も生かし、産休・育休後のスムーズな職場復帰のサポートなど、家事と仕事を両立できる様々な制度を導入した。男性社員についても「1年間の育休期間は、時期や期間に関わらず、いつとってもかまいません。給与カットもしません。その方が……奥さんが喜びますよね」と笑顔で話す。
生き生きと豊かに過ごせるよう“声なき声”に応えていきたい

生き生きと豊かに過ごせるよう“声なき声”に応えていきたい

社員とは年2回の面談を欠かさず、思いをしたためた手紙を渡し、意見や要望には真摯に耳を傾ける。「同じ一人の人間としてフラットに付き合い、何でも言い合える関係を築いていければと思っています」

社長を引き継ぐ際、父に聞いたことがある。「私にできると思う?」。父は即答した。

「お前ならできる」

鮮明に記憶に残る一言。「私を100%信じてくれているんだ、と。あの時『絶対にやってやる』と心に誓いました」

今でも思い出すたびに勇気が湧いてくる父からの力強いエールだ。

ゆっくりで良いから自分の足で

徳武さんが最も大切にしているのは「現場の声」。福祉施設や病院に足繁く通い、高齢者らから歩行に関する悩みなどをヒアリング。リアルな生の声を商品やサービスに生かしていく。「話を聞いていると、口には出さないけれどあきらめていることや、本人が気づいていない悩みなどが見えてきます。そんな“声なき声”に応えられる商品づくりは、母が大切にしてきたことです。私もその想いを引き継いでいきたいと思っています」
履きやすく、脱げにくく、脱ぎやすい「瞬感スポッと」

履きやすく、脱げにくく、脱ぎやすい「瞬感スポッと」

昨年売り出した「瞬感(しゅんかん)スポッと」。履きやすく、脱げにくく、脱ぎやすいという画期的なシューズだ。「かかと部分に突起を付けて脱ぎやすくし、足の甲の部分にクッションを組み込んだことで脱げにくくしています」。さらにスポーツジムが開発に協力した、高齢者がリハビリなどで使う「履きやすく動きやすく歩行時に安定感のあるシューズ」を先月発売した。“現場の声”は次々と形になっている。

「人生100年時代と言われるが、実際の寿命と健康寿命の差は大きい。でも、足元の不安を解消することで、その差を少しでも埋められると思うんです」。「あゆみシューズ」は“人生最後の靴”とも呼ばれている。「寝たきりではなく、ゆっくりでも良いから『自分の足で歩くこと』にこだわっていきたい。歩くことでやりたいことやできることの幅は広がります。みんなが生き生きと豊かに過ごせるよう、私にはもっともっとやるべきことがあると思っています」

篠原 正樹

德武 聖子 | とくたけ せいこ

略歴
1972年 さぬき市出身
1991年 志度商業高校(当時)卒業
1993年 徳島文理大学短期大学部 卒業
1997年 徳武産業株式会社 入社
2019年 代表取締役社長

徳武産業株式会社

住所
香川県さぬき市大川町富田西3007
代表電話番号
0879-43-2167
設立
1966年9月
社員数
80人
事業内容
ケアシューズ(高齢者シューズ)、ルームシューズ製造販売 他
資本金
1000万円
創業
1957年5月
主な製品
ケアシューズ(高齢者シューズ)
リハビリ・介護用シューズ
トラベルスリッパ
ルームシューズ
地図
URL
http://www.tokutake.co.jp/
確認日
2024.10.03

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