農家と研究者の目線でタマネギ新品種開発!

七宝 代表取締役社長 岩田 豊志さん

Interview

2008.08.07

(株)七宝は農家が農家のために作った、タマネギの品種改良とタネの専門会社だ。農家が生産したタマネギのタネを、会社が買って全国に売る。
終戦直後からタマネギの品種改良に取り組んだ、創業者(現会長)の岩田次夫さんが作った研究グループが、20戸の農家の「七宝玉葱採種組合」になった。その組合員が株式会社を設立して、日本のタマネギの品種改良を支えて来た。
幼い頃からタマネギ畑で育った息子で2代目社長の岩田豊志さんは、農家と研究者の二つの目を持つ経営者だ。ゼロから北海道でタマネギの育種に取り組み、大手企業や国立研究所と競争して、病気に強い貯蔵性に優れた品種を開発、タマネギ種子の販売シェアー75%を誇る日本一の会社になった。

農家の感性で新品種を

温度と日長時間に敏感なタマネギは、外国品種のタネをまいてもうまく育たない。そのうえ品種改良に十数年かかる野菜だ。
1970年代前半、北海道のタマネギに乾腐病が大発生した。その病気に抵抗性のある品種は、大手の種苗会社や国立の北海道農業試験場が入手していた。米国ウィスコンシン大学のガーベルマン教授が開発したタネだ。
北海道で新品種開発に取り組んでいた豊志さんは、北海道の在来品種とガーベルマン教授の系統を交配して、幼苗検定法を改良することで先行の競争相手より早く、病気に強く貯蔵性に優れた画期的な品種を開発して、2004年農林水産大臣賞を受賞した。
「同じ植物を見てもそれをどう感じるか。これは農家の感性ではないでしょうか。生まれて50数年タマネギの中で過ごしていますから、ひらめいて頭のなかがくるくる回ります」。2、3歳の豊志さんがタマネギ畑で羊羹をかじっている写真が残っている。

※(乾腐病)
タマネギの重要病害で、根は褐変し、茎盤部(根のつけ根)が腐敗する。

※(幼苗検定法)
ウィスコンシン大学のタマネギ乾腐病早期検定法。糸状菌を特種な砂に混ぜてタマネギの種を播き発芽させ、正常に発芽発育する乾腐病に強い個体や系統を選別する。
この方法は実際の圃場での結果と異なることが多かったので、砂に北海道の火山灰を混ぜて保水性を高くすることで改良できた。

毎年2000もの交配試験

「病気に強いタマネギができても、採種性が低くタネが採れないことが起こります。タネを大量に農家に普及できないと良い品種とは言えないんです。そのために農家と研究者の両方の目が必要です」。理詰めでいかない植物の摂理を、農家の目で観察できる研究者は少ない。
花の中に雄しべと雌しべが同居しているタマネギは、自家受精で弱くなるから、花粉を持たない品種を作って遠縁の花粉で受精させる。
「毎年2000ぐらい交配試験をして、良い品種は10年に一つ程しか出てきません。何ヘクタールも栽培してほとんど廃棄処分です」。手間と金をかけて、地道な交配を営々と繰り返す。農家の遺伝子を受け継ぐ会社だからそれが出来る。

北海道を見て農業へ

1954年タマネギ種子の主産地だった和歌山県が病気で壊滅状態になった。「香川県に採種地があると知れて、タマネギ産地の淡路島や大阪から注文が増えてきました」。 1970年、F1品種の量産販売を始めた。創業者(現会長)の岩田次夫さんが、終戦直後から取り組んだ品種改良は、25年をかけて成果がでた。 「大学を卒業したとき、農業を仕事としてやれるか不安で公務員になろうと思いました」。父の次夫さんに北海道に連れていかれて決心した。「やるなら北海道だと、ゼロから始めて栽培面積の90%の農家に使ってもらえるようになりました」。 20戸の組合員では供給能力が足りなくなって、委託農家をおよそ50戸に増やした。「会社が農家の採種を指導して需要はまかなえましたが、組合員は採種農家として安定した収入がありましたから、委託先を増やすと収入が減るのではと不安もありました」。  タマネギの栽培面積は北海道が1万2000ヘクタール、北海道以外の産地(主に西日本)が1万1000ヘクタール、合わせておよそ2万3000ヘクタールだ。北海道以外の産地で60%、全国では75%の栽培面積の農家で七宝のタネが使われている。

※(F1品種)
異なる系統や品種を交配して得られる作物や家畜の優良品種のこと。1代目の雑種の子では、大きさ、耐性、収量、多産性などで、両親のいずれをもしのぐことがあり、20世紀初頭、作物では米国のトウモロコシ栽培で開発され、生産量は増大した。現在の日本のほとんどの市販野菜はF1品種。

農家のために農家が作った会社の使命

北海道とよく似た気候の中国から、タマネギが輸入されて値段が暴落したことがある。「一時期、ヨーロッパへ輸出していましたがやめました。それでも販売先のある農協から海外へタネが流れたので、取引をやめたこともあります」。農家の協同組合の輸出したタネが農家を苦しめたのだ。七宝は農家が農家のために作った会社だ。農家のためにならないと農業も会社も成り立たない。「農業が成り立たないと、土地の生産力や農業技術が崩壊して元へ戻らないと思います」。
2000年以上やってきた日本の稲作は、世界に誇る環境保全型農業なのだ。「水田が荒廃すると農地が疲弊して、病気が増えて作物が作れなくなります。経済効率を追求して来た我々のおごりです」・・・豊志さんは、終戦直後に農業・農村の改革のため、タマネギ品種改良の事業化に取り組んだ父の背中を見て育った。
「技術的なことでは父とよくやりあいました。当時の社長に、違いますと言えるのは私だけでしたから」。来年は採種組合を立ち上げたメンバーの3代目が、大学院を卒業して会社に入る。「この世代に未来を託せるようにするのが私の役目です」。タマネギ農家のために、日本の農業を守るために、農家と研究者の目で地道なタマネギ交配を営々と続ける。

タマネギ種子開発は隙間産業?

タネを制する物は世界を制する・・・種苗産業に多国籍企業が参入している。
「大資本は遺伝子組み換えで除草剤に耐性を持つ品種を作って、『タネと除草剤のパッケージ商品』の巨大な農業市場を開拓しました。自然の力を借りる農業が、工業製品と同じ市場原理で取引されます」。投機的な資本に買われて種苗会社が動く。「アメリカの研究者に会うと、前の名刺と変わっているんです。業界も研究者も腰をすえた研究ができない時代です」。
タマネギは地域ごとに育種しないと育たないし、品種開発は十数年かかるから、短期間で利益を求める投機マネーのターゲットには向かない。タマネギ種子開発は隙間産業なのかもしれない。

岩田 豊志 | いわた とよし

略歴
1952年10月 香川県三豊郡(現・三豊市)豊中町生まれ
1975年 3月 香川大学農学部卒業
1975年11月 (株)七宝 入社
1987年 9月 専務取締役
1998年 9月 代表取締役社長

株式会社七宝

住所
香川県三豊市豊中町岡本2412-2
代表電話番号
0875-62-2278
設立
1972年
社員数
49人
事業内容
タマネギの品種改良ならびに種子の販売、及びこれに付帯する事業
沿革
1952年 「七宝玉葱採種組合」創立
1972年 七宝玉葱採種組合の品種改良部門と営業部門を
    主体にして、「株式会社七宝」を設立。
1972年 七宝玉葱採種組合と委託採種を契約、生産した
    種子は株式会社七宝より販売する。
地図
確認日
2008.08.07

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