「障害」が気付かせてくれた
健常者には見えない市場

スワニー 代表取締役会長 三好 鋭郎さん

Interview

2009.08.06

手袋の製造販売を手がける(株)スワニー代表取締役会長の三好鋭郎さん(69)は、1967年ニューヨークで直径7センチもある車輪付きのトランクを買った。
手袋の見本を詰め込んで世界中へ売り込むためだ。小児まひの後遺症で右足が少し不自由な三好さんは、このトランクが無ければ海外旅行がむずかしかった。「ホテルへ着いたら、空っぽにしたトランクを支えに歩きました」
十数年前、トランクを改良して、つえ代わりになる「ウォーキングバッグ」を開発した。本業の手袋の売り上げは横ばいだが、バッグ事業が好調だ。
三好さんは、健常者には見えない大きな市場に誰よりも早く気付いた。

※(ウォーキング バッグ)
スワニーが開発した、もたれて歩ける「キャリーバッグ」の登録商標。

※(キャリーバッグ)
バッグ本体に、長さを調節できるハンドルとキャスターが付いた旅行用バッグ。元々はスチュワーデスが使っていたものといわれている。

夢がヒントに!

季節商品の手袋に依存したままで良いのか・・・。80年代後半から手袋の経営環境は悪化した。年間を通じて販売出来る商品の開発を模索した。

ニューヨークのマンハッタンで買ったトランクは大きくて重かった。「支えにして歩くのには都合が良いのですが、タクシーの乗り降りや階段で困ります」
飛行機に持ち込めるサイズで、広い空港も楽に歩けるかばんを作ろう。三好さんは自分で設計図を引いた。

「大きなトランクを、小さく、軽くするのは簡単ではありません。ハンドルを伸ばしたら重心が高くなって倒れやすくなります」
壁に突き当たった。1年が過ぎた。1996年10月、上海のホテルで夢を見た。閃いた。
「どのメーカーのカバンもハンドルは真っすぐです。ほんの少しカバンの内側にカーブさせました」。湾曲ハンドルで、体をもたれても倒れにくくして、360度回転するキャスターを付けて小回りが利くようにした。完成まで2年をかけ、97年に販売を始めた。

※(湾曲ハンドル)
日・米・中・独・仏・英・伊で特許申請

「顔出し」で「価値」を売る

売るのは開発するより10倍苦労した。3年かけて取扱店を400店舗まで拡大したが、売り上げは伸びなかった。幹部全員がバッグ事業の継続に反対した。「本業の売り上げは伸びないし、毎年数千万円つぎ込んで、瀬戸際でした」

2000年、キャッチコピーを変えた。・・・小児まひの後遺症に悩む私が、地球を100周しながらかばんを軽くしたいと思い続け、ついにもたれて歩けるバッグを完成させました。手袋のスワニー社長三好鋭郎・・・。 体験を語った「顔出し」マーケティングで、ウォーキングバッグの「価値」がお客さんに認められた。「お客さんがこのコピーを読んでいる間は、お店の人は近付きません。読み終わるのを見計らって声をかけると買ってもらえます」。バッグの売り上げが、2割を占めるほどになった。

「障害」があるから分かる

健常者がデザインしたハンドルのグリップは流線形でスマートだ。「使ってみたらすぐ分かります。障害者の視点で改良したグリップと比べると、2倍も3倍も手のひらが痛くなります」

こんなことがあった。自宅に手すりを付けた。大工さんに頼んで、後で家に帰ったら少し横に付いている。「こんなところは格好が悪い」と奥さんが位置を変えていた。
「手すりは、必要な所に付けないと意味がない。家内と言い争いをしました。その家内から『体を支えるバッグを開発する会社に、障害者の不便さを分かる人がいないと生き残れないのでは』とたびたび言われて、障害を持つ人に商品開発の責任者になってもらいました」

利用者の声で進化する

「静かな住宅街ではキャスターの音がやかましい」。利用者からアンケートはがきが戻ってきた。7回作り直してほとんど音がしないようにした。
「他社のキャリーバックは、押す時にちょっとつんのめり感がありますが、軸にベアリングを入れたキャスターは氷の上を滑るように動きます」

ハンドバッグは意外に重い。「もたれて歩けるハンドバッグを作れるのはスワニー以外に無い。軽くてコンパクトな商品にチャレンジして」と書いたはがきが来た。三好さんも法事や祝いで座敷に座ったとき、そんなサイズのバッグが欲しいと思った。 「3段を4段に、ハンドルの収納幅を短くして商品化しました。ヒットすると思います」

LEAN ON ME

お母さんに介護カート買うと言ったら、嫌やと言われました。ウォーキングバッグを買ってあげたら、とても喜んで毎日使っています」 このはがきが、介護用を使いたくない人たちの存在を教えてくれた。「あらためて気付いたんです。初めてつえをつくときは勇気がいります。足が悪いと人に思われる。それがつらいのです」

負い目だった不自由な右足。三好さんは23歳の時、失恋をして死のうとさえ思った。そのつらかった右足から、大勢の人に喜んでもらえる「ウォーキングバッグ」が誕生した。
「とても軽く動いて、人に手を引かれているようです。散歩や買い物が大変楽になりました」・・・。感謝のはがきが届く。三好さんは健常者には見えない大きな市場に立ち向かう。

「LEAN ON ME」(私にもたれてください)。去年の夏から スワニーがアメリカで使い始めたキャッチコピーだ。

三好さんの生き方・・・積極は天国、消極は地獄

三好さんは世界共通語「エスペラント」普及に奔走している。大本教の信者だ。失恋して死のうと思ったとき両親の勧めで、大本教本部で修行してやっと立ち直った。そこでエスペラントの存在を教えられ、平等性、容易性など民族をつなぐ理念に心酔した。

30年後、55歳からエスペラントの勉強を始めた。5000語以上の単語を習得、国内や欧州でエスペラント協会に所属して活動している。火の消えかかったエスペラント運動に危機を感じて、2002年からフランスのルモンド紙など欧州の新聞に、普及を目指した全面広告を出している。
問題は広告費だ。老後のための蓄えでまかなってきたが底をついた。ウォーキングバッグの特許権を放棄するかわりに、会社から広告費を出してもらっている。

「積極は天国、消極は地獄」は出口日出麻(大本教の三代教主補)の教えだ。「大本教が最終的に求めているのは平和です。その教えが私の行動の根底にあります」

※(エスペラント)
創案者はラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフ。すべての人の第2言語としての国際補助語を目指してつくった。エスペラントを話す者は「エスペランティスト」と呼ばれ、世界中に100万人程度存在すると推定されている。

※(大本)
1892年(明治25年)創立。日本神話に登場する神、国之常立神(くにのとこたちのかみ)の神示を立教の原点とする教団。俗に「大本教」と呼ばれているが、正確には 「教」を付けない。

三好 鋭郎 | みよし えつお

略歴
1939年 東かがわ市生まれ。
三本松高を卒業後、父が創業した三好繊維工業入社、78年スワニー(68年に社名変更)社長就任、2009年に会長就任。欧州エスペラント連盟名誉会員、エスペラント普及会理事。

株式会社スワニー

住所
香川県東かがわ市松原981
代表電話番号
0879-25-4101
事業内容
グローブ(ファッション、カジュアル、ドレス、スポーツ等)および、ラゲッジ(鞄類)の生産販売および輸出入事業
資本金
9000万円
代表取締役会長
三好鋭郎
代表取締役社長
板野 司
沿革
1937年 前会長三好冨夫が白鳥町にて個人創業
1950年 三好繊維工業(株)設立
1972年 (株)スワニーに社名変更
1980年 米ニューヨーク市にSwany USA Corp.設立
1984年 中国江蘇省昆山市に中国スワニー(有)設立
1987年 米Elmer Little & Sons, Inc.社を買収
1995年 新規事業のバッグ事業部発足
米2社をSwany America Corp.に統合
2005年 中国安徽省青陽県に中国スワニー分工場設立
2007年 第2回ニッポン新事業創出大賞
(アントレプレナー対象部門)最優秀賞受賞
2011年 カンボジアにSwany Cambodia Corp.設立
2013年 四国でいちばん大切にしたい会社大賞
中小機構四国本部長賞受賞
地図
URL
http://www.swany.co.jp/
確認日
2018.01.04

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