島に向かう心 男木島(その1)

工代 祐司

column

2025.07.03

男木子に近づくフェリー「めおん」から

男木子に近づくフェリー「めおん」から

高松市の沖合約10キロに男木島はあります。赤と白のストライプが可愛いフェリー「めおん」が高松港と男木島を約40分で結びます。女木島を過ぎて、潮流の急な「加茂ヶ瀬戸(かもがせと)」を北西に越え、右へぐるりと旋回すると眼前に男木の集落が現れます。

斜面に何段もの石垣が築かれ、山肌に家屋が折り重なる独特な景観が心に迫ります。人口150人弱、面積1.34平方キロメートル、細い路地と階段道の島、それが男木島です。

私は退職後、この男木島で小さな古民家を譲り受け、そこを居場所にささやかな活動を始めたところです。

男木島との出会いは2008年にさかのぼります。当時、初の瀬戸内国際芸術祭の立ち上げに向け、島民説明会に男木島を訪れました。初めて島に渡った時から男木の独特の集落の佇まいや人の温かさに魅了されました。

2010年の芸術祭がはじまり、来島者が口にした「尾道みたいね。振り返れば海が見える」「懐かしい風景だね。心が落ち着くよ」という言葉に感激したことを思い出します。

しかし、会期中に悲しい出来事が起こりました。火災が発生し一人暮らしのおじいさんが亡くなりました。アーティストからもとても慕われた方でした。高齢化が進む島での暮らしの厳しさを実感した出来事でした。

その後、2013年の第2回瀬戸芸をきっかけに島に戻られた福井さんご一家の活動で、休校中の男木小中学校が再開され、それを契機に男木島生活研究所の設立、男木島図書館の開館、未来の教育プロジェクトなどが進み、多くの若い移住者を引き寄せました。

高松在住の翻訳家、エラリー ジャンクリストフさんも男木島を愛する一人です。男木島でいると南フランスの祖母の家を思い出すそうです。そして移住者達のアクティブで一生懸命な生き方に心が弾むと言います。

私も男木島の魅力に惹き付けられた一人です。一つは、厳しい地形条件を、島民のコウリョク(相互扶助)の力で乗り越えた、寄り添うような集落の佇まいに。もう一つは、島民と移住者との協働の中で、新しいコミュニティの形が生まれようとしていることです。

次回以降、男木島での私のささやかな実践について述べていきます。
(文・写真 工代祐司)

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