
葉ゴボウと新ゴボウが並ぶ4月のせり場
卸売市場には全国から多種多様な品物を集め(集荷)、価格決定をし、店舗ごとに必要な量に分ける(分荷)という物流の機能、代金をスムーズに決済・精算していく商流の機能、それに加えて情報を滞りなく伝える情報発信の機能があります。情報発信と聞くと、その日の品物がどれくらいの価格で取り引きされたかという取引情報のように考えられがちですが、実はそれ以外に食文化にまつわる情報も発信しています。
特に地方都市の卸売市場においては、キャベツや大根などの一般的な青果物の他に、その土地の食文化を反映させる青果物が多く流通しています。香川県で小売店の店頭をじっくりと観察してみると、「マンバ(高菜)」「葉ゴボウ」「ソラマメ」と非常に特徴的な地場産の野菜が並んでいることに気づくでしょう。また、高松市中央卸売市場を見学された方は、その多様な品ぞろえに驚かれます。実は、この多様性は市場の取り扱いデータに表れており、マンバ、葉ゴボウ、セレベス(サトイモ)、ワケギ、ソラマメなど、他県ではあまり一般的でない野菜の取り扱いが、西日本の市場の中では群を抜いて高いのです。
例えば、冬場の香川県産野菜の代表格であるマンバについて、本市市場は単価、取り扱い量ともに全国有数です。また、葉ゴボウも年間を通じて香川県産のゴボウを店頭に並べたいという担当者の想いに端を発して一般流通する品目になったと伝えられます。セレベスについては近年では小芋だけではなく親イモ(※1)の取引単価も高くなってきています。
これは、青果物が単体で存在するのではなく、生産者、市場関係者、そして小売店が香川県独特の食文化として大切に守り伝えてきたことに他ならず、これこそが市場が持つ食文化の情報発信機能ではないかと感じています。
香川の食文化の神髄は、地元で生産される多様な旬の素材と、その素材を料理としてうまく使いこなすことにあります。しかし、その食文化は素材や調理方法だけでは成り立たず、季節が巡りくると生活者がその素材を難なく手に入れられるように香川県の隅々まで青果物を流通させている卸売市場流通の存在も欠かすことができないのです。

市場に出荷されるセレベス(左:小芋、右:親イモ)
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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