讃岐の食文化を端的に表現してください。(後編)
明確な晴(ハレ)と褻(ケ)の存在
これら作物も、狭い面積でより多くの収穫が見込めるものとして、例えばマンバ(高菜)のように、1株から何枚も収穫できるような品目が、また、食味が優れているものとして、サトイモのセレベス(赤芽イモ)のような品目が選ばれてきた結果、現在においても、食文化に紐づく品目として栽培がされています。
また、野菜やマメ、イモなど、簡素な味付けでは味に飽きてくることから、個々の食材が、簡素な料理方法で、且つ最も美味しく感じられる料理が探求されてきた結果、マンバを最も簡単で美味しく仕上げる料理方法「マンバのけんちゃん」などが誕生したのだと考えられます。
一方で、ただただ貴重な食材である米や麦を節約するだけでなく、正月の「あん餅雑煮」や半夏生の「新麦のうどん」、春祝魚の「押し抜き寿司」など、季節の節目などには、思いっきり贅沢をする文化も存在します。
香川県の気象条件の中、先人の並々ならぬ努力により、「マンバのけんちゃん」「チシャもみ」といった野菜を主体とし素材の魅力を最大限まで引き出す「褻」の食文化と、「うどん」「あん餅雑煮」「押し抜き寿司」といった特定の行事には米・麦をふんだんに使う(それでも貴重な食材は節約する)「晴(ハレ)」の食文化という、二層構造の食文化が完成され、それは現代でも存在感を放っているのです。
平成26年11月から令和5年8月まで、10年間、全96回にわたり、「讃岐の食」を、食材だけでなく、文化、物流、データ、歳時記等の様々な切り口から見つめてまいりました。香川県には、季節ごとの豊富な食材、季節ごとの料理、それを支える物流網など、日本の、そして、世界のどこにもない素晴らしい食文化を持った地域だと再認識しました。ぜひ皆様も、身の回りにある何気ない食が、とても特殊で唯一無二な存在であることを頭の片隅に置きながら、日々の生活をお送りいただければと感じております。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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