2つの天ぷら

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2016.05.19

讃岐の初夏の食卓(写真提供:香川県農業経営課)

讃岐の初夏の食卓(写真提供:香川県農業経営課)

讃岐の伝統料理は、旬の時期にたくさんある素材を、いかに美味しく調理するかというコンセプトがあり、料理に旬を強く感じることができます。素材を検証することで、料理の旬が浮き上がってきます。

今では一般的な料理である「天ぷら」。実は天ぷらには食べられる旬があります。天ぷらの食材としてすぐにイメージされるものといえば、山菜やタケノコなど春の野菜です。天ぷらは春というイメージが思い浮かびます。そして、天ぷらの材料として欠かすことのできない素材、それは「油」です。

過去、食用油は主に菜種から採られており、菜種が収穫される時期といえば、アブラナ科の野菜であるダイコンやカブの花が咲き、種が実る春にあたります。実った菜種を集め、搾油することで菜種油が出来上がり、フレッシュな菜種油で揚げた料理が天ぷらとなります。

また、讃岐の天ぷらには大きな特徴があり、素材を揚げるだけでなく、調理済みの素材を天ぷらの材料にします。味付けされたタケノコや葉ゴボウ、煮豆などがまさにそれで、大量にあった旬の食材をふんだんに使って料理をし、食べきれなかったものを天ぷらにすることで、料理にバリエーションを持たせていました。中には法事などでいただいたおまんじゅうを天ぷらにすることもあるそうです。

そして、讃岐にはもう一つの天ぷらがあります。それが「揚げかまぼこ(薩摩揚げ)」。讃岐の練り物文化は18世紀には既に記録があり、明治時代には揚げかまぼこなど庶民の食べ物としても普及していきました。現代では材料である魚のすり身は県外より調達することができますが、貯蔵流通技術が十分でない当時は、練り物文化が成立するほど大量の魚が水揚げされていたことを慮ることができます。

食材にも旬があるため、料理にも旬が存在します。素材に思いを巡らすことで、日常的に食べている料理も、実は季節感の強い食べ物であることが見えてきませんか。

天ぷら(揚げかまぼこ)

丸天、長天など讃岐の揚げかまぼこの文化は実にバリエーションが多く、中に入れる素材によってさらに多様になります。高松市の揚げかまぼこ消費量は鹿児島市に続いて全国2位※。土産物や贈答品としての「ハレ」の食材としてだけでなく、しっぽくうどんやマンバのけんちゃんなどの家庭料理に使われるなど日常的な「ケ」の食材としても愛されています。

※家計調査(総務省統計局)より

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん

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