守りながら攻める 23代目宮司の挑戦

金刀比羅宮 宮司 琴陵 泰裕さん

Interview

2025.08.07

2024年8月に国の重要文化財に指定された御本宮を背に=琴平町

2024年8月に国の重要文化財に指定された御本宮を背に=琴平町

タブーを無視してでも

「こんぴらさん」の愛称で親しまれ、「一生に一度はこんぴら参り」と言われるほど、昔も今も多くの信仰を集める金刀比羅宮。海の守り神、医薬や商売などの神様としての神聖な場所であるのに加え、年間200万人以上が訪れる香川、四国を代表する屈指の観光スポットでもある。

2021年に宮司に就いた琴陵泰裕さん(45)。優しい表情、柔らかい口調が印象的だ。「お参りすることで、心がほっとして安心する。『しあわせさん、こんぴらさん。』のキャッチフレーズの通り、みなさんに幸せな気持ちになってもらいたいというのが一番の願いですね」
老朽化などに伴う「令和の大改修プロジェクト」が進む旭社(国指定重要文化財)

老朽化などに伴う「令和の大改修プロジェクト」が進む旭社(国指定重要文化財)

宮司の仕事は多岐にわたる。

正月に行う歳旦祭や拝賀式、10月の例大祭、春分祭や秋分祭、年末の大祓式や除夜祭など、年間に60回ほども行われる神事や行事を司るほか、所有する様々な文化財の保存管理、そして何より、金刀比羅宮のトップとして“経営”していかなければならない。

「今の時代、全国的に見ても神社を切り盛りしていくのは大変です。後継者不足の問題もあります。どうすれば人が集まるのか、どのようにして伝統を引き継いでいくのか。これまでの常識に縛られないやり方が必要だと考えています」
今年2月、金刀比羅宮と日清食品がコラボした「開運どん兵衛きつねうどん」と「開運どん兵衛天ぷらそば」が全国発売された。パッケージの中央には、御本宮の写真と運気上昇・商売繁盛の「御祈祷済」の文字がデザインされ、総額1000万円分のポイントが当たる「運だめしおみくじキャンペーン」も合わせて行われた。

また、直接参拝に来られない人向けに、金刀比羅宮のお守りやお札などがホームページ上で授与できるECサイトも開設。神社と寺の垣根を超えて総本山善通寺とタッグを組み、期間限定の「金刀比羅宮×総本山善通寺コラボ御朱印」の授与も行った。「『神社なのになぜ?』とか『そんなことをやって大丈夫?』と言われるかもしれません。でも、タブーを無視してでもやっていかないと、これからの神社界は成り立っていかないと思います」

さらに今、琴陵さんが力を入れているのがDX化だ。例えば、お守りやお札の販売管理。POSシステムを導入してデータを分析することで「どの時期に、どの層に向けて、どんなものをPRしていけばいいのかなどが見えてきます」
琴陵さんお気に入りの緑黛殿の貴賓室。 壁には明治以降の歴代宮司の肖像画が飾られている

琴陵さんお気に入りの緑黛殿の貴賓室。
壁には明治以降の歴代宮司の肖像画が飾られている

琴陵さんが先代の父・容世さんから宮司の職を継いだのは、コロナ禍の真っ只中だった。参拝客は半数以下に落ち込んでいた。容世さんが体調を崩したという事情もあったが、「その時期に代替わりするというのは、何らかの意味があったんだと思うんです」と当時を振り返る。「どん底とも言える状況だったからこそ、思い切って“攻め”に転じることができました。私自身、元来“攻め”の性分なんです」

金刀比羅宮には、江戸時代に活躍した絵師・伊藤若冲が描いた障壁画が数多く残る。通常は非公開だが、「食事をしながら若冲の作品を楽しんでいただくという高付加価値な試みも行っています。思えば……神社らしくないことばかりやっていますね」と笑顔で話す。

悩みに悩んだ末の決意

 琴陵さんは23代目の宮司。幼い頃から「『一般的な家庭とは何か違うな』とか、『祖父や父はどんな仕事をしているんだろう』と漠然と感じていました」

父に「継いでほしい」と言われたことはなかったが、「中学や高校の頃には『将来どうすればいいんだろう……』と悩みに悩んだ時期もあった」と打ち明ける。

大学では神道学を専攻。大学院まで進み、神職の道に入ることを決意した。「世襲が良いのかどうか、という思いは正直あります。でも、代々受け継いできた琴陵家のアイデンティティーをなくしてはいけないという思いもある。将来の金刀比羅宮にとって良い方向は何なのか。これからも考えていかなければならないことだと思っています」

多様な価値観に沿って

1993年、金刀比羅宮は『エブリバディ、コンピラサン。』と銘打ち、新聞広告や全国の主要駅にポスターを貼るなど大展開した。英語のフレーズやユニークなイラストを使ったキャンペーンは、神社界では画期的だと話題になった。
100年先200年先まで存続させるグランドデザインを描いていく

100年先200年先まで存続させるグランドデザインを描いていく

それから30余年……現在の参拝者は、アジアや欧米からのインバウンド客が実に半数以上を占める。

「まさに今の時代にマッチした形。多言語や多様な価値観に沿うよう私たちも変化していかなければならない」と琴陵さんは力を込める。

「神様あってこその私たちです。地元を代表する観光地という責任も果たしながら、金刀比羅宮を5年10年の短いスパンではなく、100年先200年先まで存続させるグランドデザインを描いていきたい。登って良かった、参拝して良かったと感じてもらえるよう、伝統を守りながらも、常に攻めていこうと思っています」

篠原 正樹

琴陵 泰裕 | ことおか やすひろ

略歴
1980年 琴平町出身
1999年 丸亀高校 卒業
2005年 國學院大學大学院文学研究科神道学・宗教学専攻 修了
     出雲大社 奉職
2009年 金刀比羅宮 禰宜 就任
2014年 権宮司 就任
2021年 第23代宮司 就任

金刀比羅宮

住所
香川県仲多度郡琴平町892-1
代表電話番号
0877-75-2121
社員数
約70人
地図
URL
https://www.konpira.or.jp/index.htm?stageID=hp_home&language=JAPANESE
確認日
2025.08.07

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