変わる高松空港 “選ばれる”ために

高松空港株式会社 社長 小幡 義樹さん

Interview

2019.10.03

8月にオープンした空港直営店「四国空市場」(通称YOSORA:よそら)。  「四国のいいもの」が並ぶ=高松市香南町の高松空港

8月にオープンした空港直営店「四国空市場」(通称YOSORA:よそら)。

「四国のいいもの」が並ぶ=高松市香南町の高松空港

ベクトルを一つに

昨年度の高松空港の利用客は、前の年から約20万人増の209万人。1989年の開港以来初めて、200万人を突破した。

6月、高松空港を運営する高松空港株式会社の2代目社長に就いた小幡義樹さん(55)は、「ここまでは、地元自治体や地域の観光協会などいろんな人たちの長年の努力の成果だと思う。高松空港のポテンシャルの高さを実感している」と手ごたえを口にする。 
4月に完成した立体駐車場

4月に完成した立体駐車場

昨年4月の民営化以降、高松空港は変化し続けている。今年4月には駐車容量を400台分拡大する立体駐車場を建設。当初は民営化5年目に150台分を増設する予定だったが、マイカー利用者の利便性向上を優先して3年前倒しし、容量も増やした。「ゴールデンウィークに何とか間に合い、目立った混雑なく乗り切ることができました」。8月には「四国4県のいいもの」「アート県香川の発信」をコンセプトにした直営店「四国空市場」(通称YOSORA:よそら)をオープン。うどん、オリーブ、和三盆などの県産品に加え、アート関連グッズ、四国各地の特産品や空港オリジナル商品がずらりと並ぶ。「地元の人でも意外と知らない商品もそろえています。送迎に来た人や地域の人にもぜひ立ち寄ってもらえれば」

オフィスにも工夫を凝らす。広がるのは、部署間の仕切りもなければ、「自分の席」もない、開放的な空間。スタッフは日々、思い思いの場所で業務にあたる。「この会社は航空会社への営業、滑走路の管理や直営店の運営など仕事が多岐にわたります。様々な人が垣根なく混じり合うことで、会話が生まれ、アイデアが生まれるのではと期待しています」。今月1日には、旅客ターミナルビルなどを運営する高松空港ビル株式会社を吸収合併した。「スタッフみんなのベクトルを一つに合わせ、目標に向かって一緒に歩んでいきたいですね」。オフィスにはもちろん社長室もない。「きょうは一日、“立ち席”で過ごそうかと思っています」と小幡さんは笑顔で話す。

種をまき、戦略を練る

「仕切り」や「自分の席」をなくしたオフィス。  文房具などは共有してモノを減らし、  ペーパーレス化も進めている。

「仕切り」や「自分の席」をなくしたオフィス。

文房具などは共有してモノを減らし、

ペーパーレス化も進めている。

全国的にも注目を浴び誕生した高松空港株式会社。順調な滑り出しに見えるが、「うまくいっていることもあれば、予想通りじゃないこともある」と口元を引き締める。「世間は『民営化したのなら1年に1本くらいは新路線ができるのでは』と見るかもしれない。でも、そう簡単なことではありません」

高松空港は民営化時、「2032年度の年間利用者数307万人」という大きな目標を掲げた。その根拠の一つとなるのが、タイ、シンガポール、ベトナムなど、東南アジアを中心とした路線網の拡大計画だ。しかし現在、LCC(格安航空会社)の台頭やインバウンド(外国人の訪日旅行)増などにより、全国各地の空港が熾烈な新規路線の誘致競争を繰り広げている。

民営化後の高松空港では、まだ新規路線開設には至っていないが、「今は種まきをしている段階。企業の海外出張ニーズを捉えるなど戦略を練っていく。どうやったら高松に飛ばしてもらえるか、知恵の絞りどころです」

航空会社は“儲かる”という確信がないと路線は持たない。だが、地域に魅力があり、“選ばれる空港”になれば自ずと「じゃあ新たに飛ばすか」「便数を増やすか」となる。小幡さんは「魅力づくりは空港だけでできるものではないが、四国・瀬戸内地域全体の取り組みとして、みんなで力を合わせていきたい」と意気込む。7月には空港と、観音寺市や善通寺市、愛媛県の四国中央市などを結ぶ連絡バスの運行を誘致した。「まず私たちが目指すのは『より利用しやすい空港』。バス路線を充実させたり空港施設を使いやすくしたり、地道に一つ一つ整えていこうと思っています」

「星まで高く飛ぶ」覚悟で

「新路線誘致へ 知恵を振り絞る」

「新路線誘致へ 知恵を振り絞る」

高松空港株式会社は不動産大手の三菱地所を代表に、建設会社や香川県、高松市など6者で設立。小幡さんは三菱地所出身で、東京・汐留の超高層マンション「東京ツインパークス」建設など、数々の再開発プロジェクトを手掛けてきた。

仕事に明け暮れる日々を過ごす中、ある時先輩から「君は寝ている間に仕事の夢を見ることがあるか」と尋ねられた。「夕べも仕事のことが気になって、パッと目が覚めました」と答えると、「そうか、じゃあ君も一人前だ」。その一言で救われた気がした、と当時を懐かしむ。

まちの再開発事業と空港経営。全くの畑違いのようだが、「利用者や地域のことを思ってマネジメントしていく。通ずるところは決して少なくありません」

生まれは長野県の山あいの町、木曽郡南木曽町(なぎそまち)。同郷の作家・島崎藤村が遺した言葉「星まで高く飛べ」の精神を常に心がけてきた。「何事にも明るく前向きに、向上心を持ってチャレンジしていきたいですね」。これまで香川とはほとんどゆかりがなかったが、「夕焼けがとてもきれい。写真が趣味なので、屋島や五色台、瀬戸内の多島美などをカメラに収めたい」と表情を和らげる。

「今後は、国内外で人の行き来がどんどん増えてくると思う。ということは、空港が機能することで人の交流はさらに活発になる。高松空港から国や社会を盛り上げられるよう、まさに星まで飛ぶくらいの覚悟でやっていきたいと思っています」

篠原 正樹

小幡 義樹|おばた よしき

略歴
1964年 長野県木曽郡南木曽町生まれ
1983年 長野県蘇南高校 卒業
1988年 東京都立大学経済学部(当時) 卒業
     三菱地所 入社
2013年 三菱地所ハウスネット 代表取締役社長
2017年 三菱地所 美術館室長
2019年 高松空港 代表取締役社長

高松空港株式会社

住所
高松市香南町岡1312番地7
TEL.087・814・3657(代表)
設立
2017年9月11日
株主
三菱地所、大成建設、
パシフィックコンサルタンツ、
シンボルタワー開発、香川県、高松市
資本金
82億7700万円
従業員
90人(2019年10月1日現在)
事業内容
高松空港の運営、維持管理、企画、
空港利用者に対するサービス提供 など
路線
国内線:東京(羽田、成田)、沖縄
国際線:ソウル(仁川)、上海(浦東)、台北(桃園)、香港
地図
URL
http://www.takamatsu-airport.com/
確認日
2019.09.30

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