創業者が教えてくれた帝王学

伸興電線 代表取締役 尾崎 勝さん

Interview

2008.10.02

「なんとまぁ、自分には力のないことかと思い知らされました」。伸興電線(株)二代目社長の尾崎 勝さんは、創業者で叔父の尾崎忠夫さんの許で10年勤めたが、厳しい帝王学に反発して会社を飛び出した。
5歳で後継者として養子に入って以来、初めての抵抗だったが、この時初めて自分を見つめなおしたと言っていい。
「後ろ盾が無い僕が認めてもらうために何がいるのか。会社の外で過ごした10年間で、世間で通用する”野生の勘“を身に付けたと思います」・・・呼び戻されて4カ月後、その養父が亡くなった。勝さんは、遺影の裏に書かれていた短い言葉で、自分に託された創業者の経営哲学を知った。

外に出て「やるべきこと」が見えた

亡くなった忠夫さんの書類を整理したら、夢を語った資料がいっぱい出てきた。勝さんが今から社長としてやろうとしている正にそのことが備忘録に書いてあった・・・いま何に取り組まないかんのか。これが分からないのか。本気で考えたらわかるだろう」・・・忠夫さんの声が聞こえた。
「先代さんが元気だったら陣頭指揮でガンガンやるはずだったことを、会社を飛び出していた僕が、今、代わってやっています」。

家訓

忠夫さんは亡くなる年の春に、遺影になった写真のセラミック陶板を、大小2つ作った。葬儀の帰りに役員から、陶板の裏を見てくださいと言われて気がついた。一つには「分相応に処すべし」と、もう一つには「人に優しく仕事に厳しく」とあった。
「力もないのに無謀なことをやってはいかん、会社の分を上げてからやれということです。そして、厳しくやって業績を上げないと社員が喜ぶ会社に出来ないぞと。苦労して会社を育てた先代さんの『哲学』が、僕が目指すべき答えが、書いてありました」。

指示待ち社員の意識を変える

社風改革が課題だ。「会社を引っ張ってきた先代さんは、全てにおいてスーパーマンで、社員はスタッフでした」。指示待ちの組織だった。
「古参社員にありがちですが前例主義で消極的です。ある材料を別の物に変えると年間5、600万円コストが削減できます。しかしその材料は10年以上前に使えないという結論が出ている、と言います。出来ない理由はすぐ見つけますが、使いこなすための発想、工夫が出てきません」。原因は、設備なのか人手なのか材料なのか。問題を解決できれば、設備や人に1000万円掛けても3年目から利益が出るのに、チャレンジしない。
去年の春、成果を反映する人事制度に変えた。給与も平均で6%ほど上げて、香川の100名以上の製造業の給与水準より高くした。創立記念日に特別表彰社長賞を2組に50万円ずつ出した。「金額を発表するとどよめきどがおきました。今年は『使用電力削減』で結果を出した社員に100万円を贈りました」。

人に優しく仕事に厳しく

得意先から会社が変わったと言われた。社長になって4年間で、売上が27億円から62億円に増えた。
「社員の喜ぶ顔を見るのが楽しみです。会社の横に敷地を買い足して庭園風に整備したら、従業員がゴールデンウィークに家族を連れて見せに来ました。本当にうれしくて・・・」。

勝さんは”社員の喜び“をより大きくするために、利益も会社の規模もより大きくしようと決意している。
「玩具を買い与える子どものご機嫌とりではありません。社員の喜びは、社員自身がチャレンジしてはじめて得られるものです。結果には成果もリスクもありますから」。

船便と倉庫でコストと時間を削減する

距離が近い西日本(関西・中四国・九州)より、東京を中心とした東日本の売上が3倍に増えて輸送コストが上がった。それに全国の主要都市で、翌日午前中に注文品を届けられない所があるから、ジャストインタイムの商売に限界もある。
ところが東京向け出荷量が1日当たり20トンに増えて船便を運航できる量になった。「高松から東京までトラック運賃はキロ当たり25円ほどで、船便では8円程度です。しかし今日の注文が船便で先方につくのは明後日です。配送時間短縮のために、今年の5月埼玉に倉庫を構えました」。船便で商品を倉庫に補給してストックする。注文品は倉庫から配送するからその日に着く。急ぐお客さんには倉庫まで取りに来てもらえる。
「倉庫からお客さんまでのコストは7円、船便コストを入れて15円です」。25円の配送費が15円になって、毎月400トンの輸送コストが400万円安くなった。「5人配属した社員のアパートと倉庫の家賃を合わせても260万円ですから元が取れます」。
静かに淡々と話す勝社長には、今、先代さんと同じ確信がある・・・環境の変化あるいは悪化も、発想を変えると大きな改革になり、ビジネスチャンスを広げることができる。

創業者を自分に重ね合わせる

「何をテーマに、何を学んで、問題をどう認識しているか」と問う。創業者で養父の鋭い言葉の意味を理解した時、残された時間はもう無かった。会社を引継いだ勝さんは経営者になって、創業者の”苦労と孤独“を知った。
「叩かれて痛い目をして挫折して、いろんな事情に揉まれて、経営者には少しずつ自分なりの哲学が生まれてくるのでしょうね」。厳しかった創業者を自分に重ね合わせる勝さんのモットーは”分相応に、仕事に厳しく人に優しく“だ。

経営者の孤独

創業者との葛藤で一度は飛び出した勝さんだが、戻ってきた二代目を待っていたのは、経営者だれもが経験する”孤独な葛藤“だった。
「指示待ちだった人が喜んで働くようになるためには、バックボーンが必要じゃないか。そのバックボーンを築くためには、やっぱり仕事を厳しくやってですね、結果を出さないと…。優しくしようたって、喜んでもらおうと思っても、その思いだけでは誰にも喜んでもらえない」。
人材は企業の宝だという。しかし、その人材は厳しい仕事によって育つ。孤独と葛藤は経営者の証かもしれない。

尾崎 勝 | おざき まさる

略歴
1959年 4月 寒川町生まれ
1982年 3月 追手門学院大学卒業
1982年 4月 伸興電線(株)入社
1987年 7月 取締役就任
2004年 5月 代表取締役就任

伸興電線株式会社

住所
香川県さぬき市志度1298-12
代表電話番号
087-894-3151
設立
1959年
社員数
110人
事業内容
電線製造販売
沿革
1959年 3月 大阪市淀川区に創立。
1965年10月 大阪府豊中市(伊丹空港南側)に工場新設。
1977年 1月 香川県志度町に移転。
       四国電力に通信ケーブル納入開始。
1978年10月 日本電電公社に通信ケーブル納入開始。
2008年 1月 FBG(ファイバー・ブラック・グレーティン
       グ)の研究開発で「第15回芦原科学賞・功
       労賞」受賞。
      「平成19年度エネルギー管理優良工場」として
       資源エネルギー庁長官表彰を受賞。
地図
URL
http://www.shinko-ew.co.jp/
確認日
2008.10.02

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