暗い時代、悩む経営トップ 手がかり求め「大坂塾」盛況

大坂塾 塾長 大坂 靖彦さん

Interview

2012.07.05

欧州金融危機に端を発して、世界経済は減速し、混迷の度を日々増している。日本も政治と経済が混乱に混乱をきわめて、未来は明るくない。企業経営もこれまで通りのことをしていたら遠からず行き詰るのは必至だ。

ワラにもすがりたい経営者に「企業にも経営者にも賞味期限がある」「リスクの中でも最大のものは経営者自身だ」「ビジネスモデルの寿命は10年」・・・・・・。歯に衣着せぬもの言いで、単純明快な経営哲学と、学んだその日から実践できる経営手法を伝授しているのが経営塾「大坂塾」だ。香川県出身の実業家大坂靖彦さん(68)が塾長を務める。

塾生の評判は上々で「耳が痛くなる話が多く、示唆に富んでいる」「経営だけでなく、人生どう生きるか生き方まで考えさせられる」・・・・・・との反応。自分のこれまでの経営姿勢を根底から改めたい、とする塾生がほとんどだ。今は高松と東京で開かれているが、名古屋と大阪でも開講の話が進む。

入塾審査は財務諸表の提出

大坂塾は東京コースも高松コースも入塾審査がある。いわば“入学試験”だが、知識を問う試験ではない。問われるのは、入塾を希望する人物が大坂さんの前で経営者として「裸になれるかどうか」だ。東京コースの場合、自分の会社の過去2年分の経営資料つまり貸借対照表と損益計算書の提出を義務づけられる。財務諸表を読める人なら、会社の現状、長所、弱点、問題点が白日のもとに分かってしまう資料だ。

高松コースは幾分ゆるく、提出しなければならないのは「BIG LIFE PLAN(ビッグ・ライフ・プラン)」と名付けられた入塾希望者の人生設計書。年間受講料は1年目が東京30万円、高松26万円、2年目はどちらも30万円だ。

3年制、基礎からみっちり

カリキュラムは初年度が「ベーシックコース」と呼ぶ基礎の座学。第1回は、塾生の会社の立ち位置を分析する「自分と自社のポジショニング」だ。

第1回の終わりに必ず第2回に向けた課題(宿題)が出される。講義の感想、自分の決意、いま抱えているテーマを記入して提出する。第2回は「人財戦略のすべて」。大坂さんの一言一句が塾生のなかに浸み込む。第3回「営業戦略のすべて」、第4回「情報のすべて」、第5回「目指すべき会社づくりと長期ビジョン」と続き、最後は「経営者の覚悟」で終わる。

全業務見直し客数増やせ

2年目はケーススタディコースと名付けた応用編だ。たとえば第3回講義「グローバル時代への対処」は中小企業の国際化のほかに生産性の向上策とビジネスモデルの再構築という大テーマを扱うことになる。会社のすべての業務をまな板の上にのせて、もう一度見つめて設計し直す。たとえば人件費。人件費を抑制するというと、すぐに人減らしの話になる。人減らしなら誰にでもできる。塾で教えるのは、どうしたら人減らしをしないで、会社の業績を向上させるかだ。

塾生の会社が扱う全商品の仕入れ先、粗利率、在庫数と期間、商品の回転率を実際の数字に表す課題が役に立つ。これがビジネスモデル再構築に向けた足がかりとなる。顧客に喜ばれるよう、粗利(売上総利益)率を下げたとしても業務を見直すことと、客数が増えることにより粗利総額は増え、市場占有率(シェア)も拡大する。「リストラとは会社の生み出す商品価値の全過程を再検討すること」と話す大坂さんは全従業員のレイバースケジューリングという経営手法を塾生に勧める。

従業員一人一人と面談し、従業員ごとに作業内容を分単位で細かく分析し、最短時間で仕事を終える方法を考えることを積み上げる手法だ。レイバースケジューリングを徹底すれば、これまで5人で断続的にしていた作業が4人で済むことになり、1人をほかの生産的な仕事に回せる。付加価値は上がり利益の源泉になる。

社員の成長ない会社の成長なし

「現代は時間のスピードが速い。一つのビジネスモデルで保てる企業と経営者の賞味期限は10年」と突き放した見方をする。「企業の寿命を長持ちさせるにはビジネスモデルを構築し直し、いつも改善する方向、そのための潜在力を持つ社員の力を絶えず引き出していかなくてはならない」とする。経営者が単なる夢とか妄想を会社の遠大なビジョンと勘違いして走り出すと、たちまち行き詰る。「塾生は自分の会社をもっとも危うくする最大のリスクは会社のトップつまり自分自身であることに気づく」。

3年目は実践編。ビジネス成功例を研究したり、塾生相互のビジネスコラボレーションの機会が提供されたり、勉強会や討論会、海外研修が待つ。

高松コース4月5日に開かれた第2回目の講義「人財戦略のすべて」では塾長の口から「社員の成長ない会社は成長しない」「辞めた社員は宝。自社の悪いところをいっぱい知っており教えてもらえるから」「人事評価。働き者は△。部下をよく指導し自分を抜く人を育てられる人が○。◎は上司を育てる人。社長を育てる人・助ける人が花マル」云々の言葉が矢のように塾生に突き刺さる。6月19日の第3回目のテーマは営業戦略。増益とコスト削減に話が及んで塾長は「人のゆく裏に道あり、花の山。本に書いてあること以外に方法はたくさんある」「利益を売買差益だけに求めるな」「社長の弱みを会社の強みにしよう」。次から次へと飛び出す塾長語録は示唆に富み、塾生を考えさせる。

非営利株式会社つくり運営

大坂さんがこれまで体験してきた仕事は、松下電器産業(当時、現在のパナソニック)に入社しドイツ駐在員を皮切りに家業だった街の電気屋を継ぎ、100円ショップ、パソコン教室経営、酒類販売、おコメの取り扱い、勉強部屋や離れ用のミニハウス販売、家電量販店の経営などいろんな業種に手を染めて、それぞれ成功をおさめた知る人ぞ知る実業家だ。

塾は日本初の民間の非営利株式会社「ビッグ・エス・インターナショナル」が経営する。非営利株式会社の第2号も四国で誕生した。徳島県鳴門市に設立された「環境創造」だ。代表は元鳴門市長の亀井俊明さん。自然保護や地球環境保護などの活動と取り組む。

黒字になるのが悩みの種

経営学者や研究者に注目される非営利株式会社第1号だが、これまで株式会社で利潤を追求してきた大坂さんには新たな悩みが生まれている。

ビッグ・エス・インターナショナルは儲けてはならないからだ。塾生は今、79社81人で、赤字を自らの蓄えを会社に回してしのいでいるが、塾生がこれ以上になると、受講料収入が多くなり、利潤が生まれる。来年以降の塾生募集が始まるが、入塾希望者は増える気配だ。「大坂塾」を独立させることも含め組織や運営方法について抜本的につくり直す時期かもしれないと考え始めている。

もう一つの事業、日独交流

大坂さんと非営利株式会社「ビッグ・エス・インターナショナル」には、もう1つの事業「日独交流」がある。いろいろな活動をしているが、たとえば、世界の紛争地帯で地雷を踏んで傷ついた子供たちを長期療養させるデュッセルドルフ近郊の町オーバーハウゼンにある施設「ドイツ国際平和村」に毎年のように100万円を妻陽子さんといっしょに届けにゆく運動をする=写真、2010年夏撮影、大坂靖彦氏提供。また高松市扇町に「ドイツの館」を設けて、香川県民とドイツの人々が親しく交流できる場も提供している。

大坂 靖彦 | おおさか やすひこ

1944年 静岡県浜松市生まれ、終戦で母の出身地香川県に
1963年 大手前高校卒業、上智大学入学
    在学中に欧州を1年間アルバイトしながらヒッチハイクの旅
1968年 上智大学卒業
    松下電器産業入社、海外研修生としてドイツに駐在
1972年 父が経営する電器店(有)大坂屋入社
1988年 大坂屋を株式会社に改組し代表取締役に
1995年 カトーデンキ(当時、現在のケーズホールディングス)と業務提携、酒と電器のグループ店を開店
1997年 大坂屋グループを(株)ビッグ・エスに統合
2006年 ケーズホールディングス常務取締役
2007年 非営利株式会社ビッグ・エス・インターナショナルを設立し代表取締役に就任
2009年 ケーズグループのすべての役員を退き、大坂塾に専念
2010年 大坂塾(東京と高松)第1期スタート
現在の主な役職
日独交流振興協会 会長
公益財団法人喝破道場評議員
上智大学経済学部非常勤講師
写真
大坂 靖彦 | おおさか やすひこ

非営利株式会社 ビッグ・エス・インターナショナル大坂塾

所在地
[ 本社・オフィス ]
高松市番町4-2-19
TEL:087-863-6888

[ 東京オフィス ]
東京都江東区有明1-4-11-3217
TEL:050-5505-1006

[ ドイツの館 ]
高松市扇町2-6-5
TEL:087-823-2626
eFAX(いずれも共通番号):03-6745-1494
URL
http://www.bigs-i.com
確認日
2018.01.04

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