1976年、瀬戸大橋着工2年前に設立した、日本初の土木施工管理の専門会社が、香川から世界へ進出した。
業界の因習に捕らわれず、年功序列や男女を問わず、能力のある人材を登用した。権限委譲と年俸制や持ち株制度で、モチベーションを高めた「指揮」の成果だ。
自動車・家電・OA複合機器・環境・新エネルギーなど、開発設計のアウトソーシング事業やソフトウエア開発へ事業領域を拡大、社名も4回変えて、土木施工管理で売り上げ日本一の会社に育てた。
「時代を少し先取りできたのが良かった。でも会社が大きくなればなるほど思い切ったことができなくなった。自由の身になって、もっと新規事業を開発したい」・・・・・・昨年10月、社長を退いた高橋さんは、会長(兼)新規事業推進室長として、1000億円企業を目指してタクトを振る。
「100億円を目指す」社員の決意書
「みんな燃えてくれました。私にとってはありがたい、うれしい宝物です」。目を細める。
2010年の売り上げは200億円を超えた。今、500億円の目標を射程に入れている。「34年前にゼロから立ち上げましたが、いまは人材も資金も、失敗から学んだ知恵もあります。5年もすれば500億は可能ですし、1000億も決して夢ではありません」。目が燃えたように見える。既存事業の売り上げを2割増やし、海外や新規事業を開発して500億円を達成する計画だ。
喜んで働いてもらうために
その大切な要素の一つが、会社の発展だ。「会社は趣味の集まりとは違います。地位と報酬がきちんとあって、将来が期待できないと、社員はがんばれません」
もう一つは市場を見付けることだという。「釣りざおや餌が良くても、魚がいなかったら釣れません。まず魚群探知機を買って魚を探すことです」。努力だけで業績は上がらない。成長市場を見つけることが、ポイントだという。説明はわかりやすく、ユーモアもある。
仕事を任せる
「採用基準はやる気です。私は専門分野が分からないから、会社がやっていない仕事でも、本気の人なら拒みません。新しいことをしてくれるんだから、ありがたいことです」。多い年には、200人を採用した。
現社長の中尾隆治さん(55)も、10年前に都市銀行を辞めて東京からやってきた途中入社組だ。実績をあげて、去年10月社長に抜擢された。
「やりたい人にいったん仕事を任せたら邪魔をしません。経営者はどうしても、否定的な知識を振りかざすことが多いですから・・・・・・。やる気がある人なら、自分で考える。あれこれ言わないで、私は最後の責任を取ればいいんです」。微笑む。
「考えろ、やってみろ、みんなのために」が社是だ。シンプルだ。
時代を少し先取り
「土木業界の変革期です。面白い時代が来ると思ったんです。専門家は経営がなりたつかどうか疑問視しましたが、私は土木技術の知識がないからやれたんです」
追い風が吹いた。建設省(現:国土交通省)からの仕事が少しずつ増えてきた。瀬戸大橋の工事も、大手の下請けで参入した。宇多津町の塩田跡地の埋め立て工事や、国道11号や33号、56号線などがどんどん造られる時代で、土木施工管理事業が忙しくなった。
測量や設計部門も設けた。自動車・家電・OA複合機器など開発設計のアウトソーシング事業やソフトウエア開発など事業領域を広げて、海外事業も増えてきた。
事業内容と市場の拡大に合わせて、四国技術管理センターを四国技術センターに、四国外に事業を拡大して新日本技術センターに、世界へ進出して「テクノロジー&ネットワーク」を意味するティーネットジャパンに、社名を4回変えた。
決して殻に自分を合わせない。自分で殻を大きく、創造する。それを実現してくれるのが社員・・・・・・社員にもストレートに「社長の目標」が分かる。
失敗の教訓
「全国の営業所を回って説得しました。泣きながら閉めないでと訴える社員もいました。つらかったですが、辞めてもらった女性事務員もいました」
公共事業依存の産業構造が続くと見込んで、1996年度から98年度にかけて営業所を22カ所も増やした。それが失敗だった。時代を読み違えると社員を不幸にする・・・・・・肝に銘じた。淡々と話すが、口元はすこしこわばった。
飛躍のための脱皮
「会社が大きくなると、どうしても日本的な組織風土に捕らわれた規則がいっぱいできてしまう。思い切ったことができなくなる。若い人をどんどん登用できなくなったんです」
社長を辞めて会長になった。同時に、新規事業推進室長として、企画案を募集した。
「うちの社員は素晴らしい。本業から脱皮した企画がたくさん出てきました。女性社員から『ネイルサロン』の提案もありました。333件集まりましたが、一つでも二つでも事業化できればいいんです」
コンダクターが振るタクトで演奏者のモチベーションは上がる。高橋さんは、1000億円企業への夢を形にするためタクトを振り続ける・・・・・・「でっかい戦略家」なのだ。
18年後に果たした約束
それでも、国立大学へ行けと言われたのに、早稲田大学の法学部へ進学、アルバイトで学費を稼いだ。4年生の時、200ドルを持って貨物船でアメリカへ渡り、1年間、ヨーロッパ、中近東、東南アジアを放浪した。
卒業後、土木コンサルタント会社の設立にかかわり経営を学んだ。観音寺第一高校の後輩久子さんと結婚、子どももできて東京で暮らしていたが、瀬戸大橋着工が契機になって、香川に戻った。5歳年上の技術者井上敬一さんと2人で土木コンサルタント会社を設立した。
「多摩川を渡って香川に帰る時、女房に『あと2、3年したら会社を大きくして東京に戻るから我慢をしてくれ』と言ったんです」。その約束を果たすのに18年かかった。
「女房は、高松の本社ビルに入ったこともありません。東京営業所を開設した時、社員に公私混同の許可をもらって、お茶くみの臨時従業員として、会社の費用で東京営業所に連れていきました」。家族の話になって、はにかんだ。
高橋さんの経営信条は三つだという・・・・・・1. 因習にとらわれない会社。2.能力を重視する会社。それに、3. 家庭を大事にする会社。
高橋 信行 | たかはし のぶゆき
- 略歴
- 1944年 観音寺市生まれ
1969年 早稲田大学第一法学部 卒業
1972年 (株)ユニエース・コンサルタント設立参画
1976年 (株)四国技術管理センター設立
代表取締役社長に就任
2009年 代表取締役社長を退任 会長に就任
株式会社ティーネットジャパン
- 住所
- 香川県高松市成合町930-10
- 代表電話番号
- 087-886-8118
- 設立
- 1976年
- 社員数
- 1200人
- 事業内容
- トータルエンジニアリング(土木施工管理、エンジニア派遣・請負、WEBソリューション開発、プラントエンジニアリング、環境・省エネ、アクアプラント ほか)
- 沿革
- 1976年 創業者 高橋信行が株式会社
四国技術管理センターとして設立
1984年 株式会社四国技術センターに商号変更
1991年 高松市成合町に本社ビル竣工
1993年 株式会社新日本技術センターに商号変更
1994年 東京事務所(現・東京本社)を開設
1998年 テクノネット事業部を開設(ES事業を開始)
1999年 株式会社ダックを吸収合併
東京都港区芝大門に自社ビル購入
2000年 システム開発事業部を開設(SS事業を開始)
株式会社ティーネットジャパンに商号変更
(海外に展開)
2001年 大阪府大阪市中央区に自社ビル購入
EEP事業部を開設(環境・新エネルギー
関連事業を開始)
2002年 いすゞ自動車からアイ・シー・エンジニアリング
株式会社の株式を取得
2003年 三井造船、三井物産などからKMP Engineering,
Inc.の株式を取得
2005年 子会社、株式会社T-NET viglaを設立
子会社、T-NET SHANGHAI Co.,LTD
(技連通(上海)国際貿易有限公司)を設立
株式会社環境防災の全株式を取得
株式会社アーバン設計の株式を取得
高松市成合町に新本社ビル竣工
2007年 株式会社朝日熱学の全株式を取得
2009年 エンダイ産業株式会社の株式を取得
創業者 高橋信行が会長に就任
常務取締役 中尾隆治が代表取締役社長に就任
エコシステム部を開設
2010年 アクアプラント部を開設 - 地図
- URL
- http://www.tn-japan.co.jp/
- 確認日
- 2010.10.21
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