“緑の油田”が生み出すバイオ燃料 目指すは究極の「循環型社会」

フジシゲ ジャトロファ プランテーション 代表取締役社長 藤重 直紀さん

Interview

2010.11.04

火山の噴火で灰に埋もれてしまった大地に今、少しずつ緑が戻りつつある。
化石燃料の代替として注目が集まるバイオ燃料。遠くフィリピンで事業を立ち上げたフジシゲ ジャトロファ プランテーション・藤重直紀社長の視線の先には、クリーンな循環型社会の実現という大きな目標があった。

ビジネスとは「困ったことを解決する」こと

それは、父親が綾川町に持つ電気工事会社を引き継いで6年目、2005年のことだった。伸び悩む業績を何とかしようと参加した経営セミナー。ビジネスのヒントを見つけるために渡ったフィリピンで、ある光景が目に焼きついた。

原油高騰に伴い、子どもたちが通学に使う乗り合いバスの料金がはね上がった。学校に通えなくなってしまった子どもたち・・・・・・。

藤重さんはこう語る。「ビジネスの基本は『困ったことを解決すること』なんです」

子どもたちを学校に通わせてあげたい―。現地で廃油を集め、バイオディーゼル燃料(BDF)化して格安で販売。バスが再び子どもたちを乗せて走り始めた。

するとまたも「困ったこと」が生まれた。需要が膨れて供給が追いつかない・・・・・・。

そこで出合ったのが「ジャトロファ」だった。

一面に広がる緑「ジャトロファ」

ジャトロファ。日本名はナンヨウアブラギリ。中南米原産の落葉低木で、その名の通り油分に富む。

地球温暖化対策として石油など化石燃料の代替として注目されているバイオ燃料。中でも今関心を集めているのが「ジャトロファ」だ。その種子から植物油を搾り出し、BDF化する。熱量は軽油とほぼ同じで、車や小型船などの燃料として使用できる。インク溶剤や石鹸(せっけん)を作ることも可能だ。

「最近では、米ボーイング社など大手航空各社がジェット燃料にジャトロファ燃料をまぜた混合燃料で試験飛行を行っている。化石燃料への依存度を下げる、将来的な温室効果ガスCO2の排出削減を視野に入れた実験だ。

ジャトロファが注目を集めるのには理由がある。干ばつや病害虫に強く、痩せた土地でも育つこと。取れる油は菜種の約3倍、大豆の約5倍で、性質が燃料に適していること。そして何より、毒性があるため食用に適さないこと。トウモロコシなどの穀物と違い、供給不足やそれに伴う価格高騰とも無縁だ。

ジャトロファの可能性を信じた藤重さんは2008年、フィリピンにフジシゲ ジャトロファ プランテーションを設立。約2000haの土地を所有し、栽培を始めた。

困難をクリアした先にあった“循環”

1haの土地で採れるジャトロファの果実は約40t。そして、種子から絞り取った油で約2tのBDFが精製される。しかし、ここで再び「困ったこと」が発生する。種子を取り出した後の果肉ゴミと搾りかす約38tだ。そのままでも肥料にはなるが、温室効果ガスのひとつメタンガスが発生してしまう。

そこで新たに取り組んだのが果肉ゴミなどのバクテリアによるコンポスト化。窒素を多く含む有機肥料や木酢が生まれ、再び土へと帰っていく。そしてまた実るジャトロファ。そこに「循環」が生まれた―。

目の当たりにした「貧困」・・・・・・モノを大切にする仕組み作りへ

藤重さんが抱く強い思いがある。

「モノを大切にする仕組みを作りたいんです」

そう考えるようになった一番の要因は、フィリピンで目の当たりにした「貧困」だ。

学校にも通えず、食事もほとんど取れず、ゴミを拾って暮らす子どもたち。日本では「もういらない」と捨てているものでも、フィリピンの子どもたちはそれを必要としている。使い古しの服や文房具、おもちゃなどを日本で集め、フィリピンの子どもたちに贈ったり、子どもたちが集めてきた生ゴミを買い取って、コンポスト化につなげたりもしている。

そういった思いも背景に藤重さんは語る。「企業が作りだしたものは企業が最後まで責任を持つべきなんです。最終的に目指しているのは捨てるものなどない『循環型社会』の形成です」

「ジャトロファ」の可能性は・・・・・・

まだ動き出したばかりのジャトロファによるビジネス。まだ確立していない市場がどれほど成長するのか、未知数な部分が多いのではとも思える。しかし、藤重さんは力強く答える。

「必要とされる事業だと確信しています。根本にあるのは京都議定書。世界はその方向に進んでいます。石油がCO2を地表に排出し続けるのを一刻も早く止めなくてはならないんです」

植林を始めて5年・・・・・・。

20年前のピナツボ火山の噴火被害で痩せてしまった土地は今、少しずつ息を吹き返しつつある。そして大掛かりな植林作業は、現地で1000人を超える雇用も生み出している。

緑の油田“から始まる循環型社会―。

未来につながる大きな希望がその広大な場所で少しずつ育ちつつある。

世界でのジャトロファ栽培

あるコンサルタント会社の調査によると、2008年時点での栽培面積は90万ha。このうち約50%が荒地を利用。また栽培エリアの約85%がアジア地域。栽培面積は今後5~7年の間に150万haずつ増え、15年までに世界で1300万haまで拡大すると予測している。

藤重 直紀

フジシゲ ジャトロファ プランテーション

住所
香川県高松市林町2560-2
代表電話番号
087-813-5918
設立
2008年
社員数
17人
事業内容
ジャトロファの加工によるバイオ燃料化
資本金
8億3500万円
地図
確認日
2010.11.04

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