攻めの経営で 物流を支える

吉田石油店 社長 眞鍋 和典さん

Interview

2015.07.02

日本経済は物流によって支えられている。日々、全国各地の店や家庭に様々な商品を届ける大型トラック。そのトラックの燃料に使われる軽油を主力商品としているのが三豊市詫間町の吉田石油店だ。

トラック向けの軽油はガソリンに比べてマージンが大幅に低い。しかし吉田石油店は、その儲けの少ない軽油にかけた。

「自家用車向けの一般的なガソリンスタンドは基本的に『待ち』の商売。でもトラック向けの軽油だと『攻め』の商売が出来るんです」

1926年の創業以来、サービスを重視したガソリンスタンド、SS(サービスステーション)を全国で着々と増やし、一昨年には香川では5社ほどしかない売上1000億円企業になった。

眞鍋和典社長(52)は攻めの経営と燃料の安定供給を掲げ、昼夜を問わず動き続ける物流を支えるエネルギーを、四国・香川から届けていく。

コストとリスク営業力でカバー

東北から九州まで、吉田石油店は全国53カ所にSSを展開している。東北道、東名高速、山陽道、九州道など、日本列島を縦断する主要高速道路に沿った立地が多く、53店舗のうち8割以上の45店舗が、大型トラックの受け入れが可能なフリート(軽油)給油所だ。

1954年、地元詫間町に出した第1号店が全国に広がるSS網のスタートとなった。契機は72年、静岡県湖西市の東名高速沿いに出店した本州では初めてとなる店舗だった。

「四国から東京へ向かうトラックが途中で燃料を補給する中継基地として作りました。トラック向けのSSを展開していくという今のベースになりました」

現在、全国には約2万のガソリンスタンド事業者がいるが、トラック向けの軽油販売にウェートを置いているのは15社ほどしかない。「元々、軽油の商売をやるところが少なかったんです。業界では、自家用車向けにガソリンを売る方が良いビジネスになるだろうという考え方が昔からありました」
広い敷地で大型トラックを受け入れる =善通寺市の善通寺西サービスステーション

広い敷地で大型トラックを受け入れる
=善通寺市の善通寺西サービスステーション

軽油中心の事業はリスクが高いと眞鍋さんは話す。大型トラックを受け入れるためには、車両の重さに耐えられる路盤の厚い頑丈な設備と、1000坪クラスの広い敷地が必要になる。トラック向けSS1店舗当たりの建設コストは約2億円。自家用車向けの約4倍だという。

ガソリンよりもマージンが低く、リスクも高い。しかし、眞鍋さんはこう話す。

「マイカーに給油する一般のお客様ももちろん大事です。ですが、私達は攻撃的な販売スタイルを取っているということです」

コンビニを併設するなどガソリンスタンドの多様化が進んでいる。だが自家用車向けの場合は、様々なサービスを導入し、安く値段を設定しても、基本的には給油に来るお客さんを待つことしか出来ない。

「トラック向けの場合は運送会社などを回って、ぜひ使ってくださいと営業をかけられます。待つのではなく、攻めていけるんです」

物流と言えば主役はトラックだ。航空、鉄道、海運を合わせても輸送量は全体の1割に満たない。国内貨物の約9割をトラック輸送が占め、市場規模は14兆円を超える。さらにここ数年、コンビニやネット通販の需要が伸びていることから、今後は物流の小口化・多頻度化が進み、トラックの輸送回数が増えていくとも見られている。

「営業マンには『お客様を訪問しろ』『同業者に負けるな』とか、そんなことばかり言っているかもしれませんね」。眞鍋さんは営業力の重要性をこう説明する。「大切なのは、いかにお客様を大事に出来るかということ。一生懸命に接して気に入ってもらい、利用していただいて満足してもらう。コストやリスクをカバー出来るのが当社の営業力なんです」

現在契約を結んでいる運送会社などの取引先は全国で約4200社。業界の中でトップクラスの数を誇る。

震災で痛感した使命

吉田石油店の創業家に生まれ、大学卒業後、新卒で入社した。約20年を東京支店で勤務し、2009年、5代目の社長になった。

常に心掛けていることがある。燃料の安定供給だ。石油販売会社として当たり前のことだと考えていたが、その重要性を再認識させられる出来事があった。社長就任からちょうど2年後に起きた東日本大震災だ。「お客様の異様な目つき・・・・・・決して忘れられませんね」

必ず燃料が不足する、現場で指揮を執らねばならないと、すぐに関東へ向かった。想像以上のパニックになっていた。現地の油槽基地は完全に麻痺し、SSでは燃料を求める数キロの行列が出来ていた。名古屋と川崎の油槽所から、タンクローリーで燃料を運べるだけ運ばせた。「お客様は『早く入れろ』とピリピリして待っている。量を制限しながら給油していきました。従業員も大変だったと思います」。緊急対応は約1カ月半続いた。

「供給量が100%ある時は全く気にならないのに、95%になったら大混乱が起こる。そういう時にこそ安定して100%供給しなければならない。それが、燃料という必需品を扱う私達の使命だと痛感しました」。震災の時、給油した取引先から御礼の手紙が何通も届いた。本社の入口にずっと掲示してある。

3都市圏をターゲットに

ゴルフコース跡地に完成間近の太陽光発電所=三豊市詫間町

ゴルフコース跡地に完成間近の太陽光発電所=三豊市詫間町

5年前から太陽光発電事業にも乗り出した。他社と合同で行う発電所建設プロジェクトをマネジメントするほか、自社でも建設中を含む8カ所で発電所を所有している。「石油産業全体がハイブリッドやエコカーの影響を受けています。生き残るには、常に新たな分野へ挑戦していかなければなりません」

今後、眞鍋さんがターゲットに捉えているのは、東京、大阪、名古屋だ。ガソリンスタンドと言えば、幹線道路や高速道路のIC近くが有利とされていた。しかしこれからは、トラックが荷物を積み下ろす物流センターや倉庫近くの方が利便性が断然高いと見ている。「3大都市圏で利用しやすい場所に補給拠点を構え、営業力をもっと磨いていけば、お客様には必ず来てもらえます」

陸上部で中距離走に打ち込んでいた中学時代、目標にしていた当時の日本記録保持者の言葉がずっと心の支えになっている。

「誰でも一生懸命やれば出来る。やろうとしないから出来ないだけだ」

念願だった売上1000億円は達成した。眞鍋さんには既に次の目標がある。「年間100万キロリットルを売りたいですね」。現在の販売量は98万キロリットルだ。

「業界全体では需要は毎年2%ずつ減っているので、決して楽な目標ではありません。でも従業員が喜んでくれて、誇りに繋がるのであれば、『やれば出来る』の気持ちで一緒に頑張っていこうと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

眞鍋 和典 | まなべ かずのり

1963年 三豊市詫間町生まれ
1985年 中央大学法学部法律学科 卒業
    吉田石油店 入社
1997年 常務取締役
1999年 専務取締役
2009年 代表取締役社長
写真
眞鍋 和典 | まなべ かずのり

株式会社 吉田石油店

住所
三豊市詫間町詫間1338−128
TEL:0875-83-3050
FAX:0875-83-6709
創業
1926年
設立
1954年
支店
東京、中部、関西、四国、九州
資本金
9000万円
従業員
703人
売上高
1144億円(2014年3月期)
事業内容
石油製品小売・直売・卸販売、LPガス・ガス器具小売・直売・卸販売、太陽光発電システムの販売・施工 他
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ