グリーン・ジャイアント
脱炭素ビジネスが世界経済を動かす

著:森川潤/文藝春秋

column

2022.01.06

2020年10月7日、アメリカのエクソン・モービルが株価の時価総額でエネルギー界の王座から転落し、替わってトップに立ったのは、アメリカ人でもほとんど誰も知らない、アメリカの地方のエネルギー企業のネクステラ・エナジーでした。エクソン・モービルと言えば、かのロックフェラーが創設して20世紀を通して石油で世界の富と権力を独占してきました。「エッソ」や「モービル」のガソリンスタンドを通じて日本でも誰もが目にしたことがある企業です。実際のところネクステラ・エナジーの天下はいわゆる三日天下でしたが、これは一時的な異変ではなく、世界は石油企業の凋落と再生エネルギー企業の成長に向かっているのは、はっきりしています。このような逆転劇が世界の各地で起こっているということですが、この本ではそのような新たにエネルギー業界に躍り出てきた企業をタイトルにもある「グリーン・ジャイアント」と呼びます。

カーボンニュートラルを制する者が世界のマネーを制するといいます。グリーン・ジャイアントの企業は、世界のエネルギーが転換点を迎えることにいち早く気づき、10~20年前から一気に再エネへと舵をきり、すでに世界のエネルギー変革の主役になっています。世界のマーケットを動かす機関投資家は気候変動への取り組みが足りない企業から資金を引き揚げ、脱炭素の分野へと巨額のマネーは動いています。日本はどうかというと、本書には外資系メーカーの幹部の話として「日本のエネルギー会社が本気で勝負しているのは見たことがない」と紹介しています。

著者は、日本はこの20年間常に塗り替えられる側に位置しており、グリーン・ジャイアントのような存在はおろか、それに準ずる存在さえ登場していないといいます。日本が今の流れに無視を決め込むにはあまりにリスクが大きいし、一方で独自のやり方を貫く覚悟もないといい切ります。

日本にはまだ芽生えていないテクノロジーの種がいくつかあり、過去の遺産を食いつぶす側ではなく、未来を作る側に賭けるのは遅すぎることはあっても、早すぎることはないということです。Z世代を失望させるわけにはいけません。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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