なぜ働いていると本が読めなくなるのか

著:三宅 香帆/集英社

column

2024.10.17

この本を紹介する前に全国にある書店の現状を簡単に書いておきます。ご存じの方もいると思いますが、全国の書店数はとっくに一万軒を割り込んでおり、この20年間で半減しています。ニュースでは書店のない市町村が今年の調査で3割近くになったと報道されますし、沖縄、長野、奈良の各県では書店のない市町村の割合が50%超えているそうです。携帯電話が誕生したのが1985年だと言います。そして着メロブームやメールサービスが開始されたのが1990年代半ば、2000年に入るとスマホが登場して、2010年代にはスマホ時代が到来して世の中が大きく変わりました。書店衰退の流れはこのケータイ、スマホの流れにピッタリと呼応しています。ただ著者はそれだけが衰退の原因ではなく、読書離れは読まなくなるより、読めなくなってしまう現代社会の構造的なものがあるといいます。

ところでなぜ働いていると本が読めなくなるのでしょうか。一日の仕事を終え、わが家に帰るとついベッドに倒れこんで、本ではなくスマホを覗いてしまう、現代人はそんな一日を過ごしている人が多いと思います。通勤の電車の中でも同じです。電車の中というのは、なぜか家にいるより本が読みやすい場所らしく、通勤時間に本を読むためにわざわざ遠い所へ引っ越す人もいたといいます。著者は本が読めなかったから、会社をやめたという人です。時間はあるのにスマホばかり見て本が読めない理由はどこにあるのかを求めて、労働という概念が導入され、本を読む方法が朗読から黙読に変わっていった、明治時代にさかのぼります。そこから読書と労働をキーワードに現代までたどっていきます。森鴎外が家族に「舞姫」を朗読するエピソードや、昼休みに社員が集まって会社の屋上でバレーボールをする源氏鶏太の時代、サラリーマンに圧倒的に読まれた司馬遼太郎などが紹介されます。

明治時代から現代までの時代を著者の手で辿ってきて見えてきたものは、ほんの数年前と比べても今の時代は本が読みにくい時代だとつくづく感じます。情報が多すぎて自分が必要としない情報はノイズとして遮断しないとやっていけません。本はそういう意味ではノイズだらけです。だからといってネットだけでは悲しいし、著者の言うように読書人口が減るのが一番悲しいことです。

宮脇書店 総本店 店長 山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ