ところでなぜ働いていると本が読めなくなるのでしょうか。一日の仕事を終え、わが家に帰るとついベッドに倒れこんで、本ではなくスマホを覗いてしまう、現代人はそんな一日を過ごしている人が多いと思います。通勤の電車の中でも同じです。電車の中というのは、なぜか家にいるより本が読みやすい場所らしく、通勤時間に本を読むためにわざわざ遠い所へ引っ越す人もいたといいます。著者は本が読めなかったから、会社をやめたという人です。時間はあるのにスマホばかり見て本が読めない理由はどこにあるのかを求めて、労働という概念が導入され、本を読む方法が朗読から黙読に変わっていった、明治時代にさかのぼります。そこから読書と労働をキーワードに現代までたどっていきます。森鴎外が家族に「舞姫」を朗読するエピソードや、昼休みに社員が集まって会社の屋上でバレーボールをする源氏鶏太の時代、サラリーマンに圧倒的に読まれた司馬遼太郎などが紹介されます。
明治時代から現代までの時代を著者の手で辿ってきて見えてきたものは、ほんの数年前と比べても今の時代は本が読みにくい時代だとつくづく感じます。情報が多すぎて自分が必要としない情報はノイズとして遮断しないとやっていけません。本はそういう意味ではノイズだらけです。だからといってネットだけでは悲しいし、著者の言うように読書人口が減るのが一番悲しいことです。
宮脇書店 総本店 店長 山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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