今年の5月トルコでは大統領選挙が行われました。その結果エルドアン大統領がさらに5年間大統領を務めることになりましたが、日本のマスコミはそのことに対してほとんどが批判的な論調でした。欧米のフィルターを通してしか、見ることが出来ない日本のニュース報道に対して著者は懐疑的です。「本書を貫くモチーフは、西欧世界から向けられる蔑視や嫌悪とトルコが自ら行ってきた改革との関係であった。私は、トルコという国が、西欧文明とイスラム文明の交差する位置にあって、整合することのない二つの文明の規範を100年かけて整理していったことに注目してきた。建国100年の今年、それは、大統領選の結果のなかに一つの答えとなって表れた」と著者は述べます。
オスマン帝国時代、十数回もロシアと戦争を行ったというトルコは、戦争においてロシアという国は無類の冷酷さと残虐性を発揮することを知っているといいます。ですが西欧世界声高に叫ぶ自由と民主主義の価値で他国を判断しません。「表向き、そういうことを言いながら、背後から人を刺すようなことを繰り返してきたのが西欧諸国だからである」。ロシアとウクライナの仲介はしても、アメリカ主導の対ロシア制裁には応じません。
トルコ国民の9割以上はイスラム教徒です。その理由と人権問題のためなのか、トルコはNATOには加盟していますがEUには加盟できていません。トルコで初めて安定多数になった公正・発展党の顔であるエルドアン大統領が、イスラム寄りという現政権を世俗主義との間でどう舵を取っていくのでしょうか。東西のはざまに位置する国が困難な道から逃れる方法は、どうすれば見つかるのでしょうか。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
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