
世界中にある都市という場所は、古今東西のチャランポランにほっつき回る人たちを引き付けるようです。永井荷風も日和下駄に「その日その日を送るに成りたけ世間へ顔を出さず金を使わず相手を要せず自身一人で勝手に呑気にくらす方法をと色々考案した結果の一ツガ市中のぶらぶら歩きとなったのである」と書いています。しかしその後に「日々昔ながらの名所古蹟を破却していく時勢の変遷は市中の散歩に無常悲哀の寂しい詩趣を帯びさせる」とも書いています。ただチャランポランにという訳にはいかないようです。現在はすつかり街歩きが趣味の一つになって、食べ歩きから歴史散歩や文学散歩などに余念がない人が増えました。大通り沿いの華やかな通りよりも、脇道にはいり込んだ迷路のような路地裏の道のほうが当然魅力的だと思います。著者によればヴェネチアのように迷路状になったウォーカーズフレンドリーな都市は世界中にどんどん増えているといいます。オランダのライデンもヴェネチアと同じように車の通行は一切なく、大駐車場に車をとめて街中は徒歩で移動することになっているようです。
もっとも私たちの日常の散歩は、どこかいい店はないかと目を凝らしたり、木陰のある公園のベンチで缶コーヒーを飲んだり、たまには「孤独のグルメ」の井之頭五郎のように博打感覚で店に飛び込むのが関の山かもしれません。最後に著者がいうように私たちが散歩する時は、その土地の人々の寛容さにあまえている。立場が入れ替わって自分が散歩者を迎え入れる側に立ったら、やはり彼らに寛容さを示さなくてはいけないと思います。それと今の時期は昼間の暑いときは避けて、朝夕の涼しい時間帯をおすすめします。
宮脇書店 総本店 店長 山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
おすすめ記事
-
2022.04.07
土地は誰のものか
人口減少時代の所有と利用著:五十嵐 敬喜/岩波書店
-
2021.11.04
やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか
著:田中 世紀/講談社
-
2019.08.01
日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学
著 小熊 英二/講談社
-
2019.04.18
いま、息をしている言葉で。「光文社古典新訳文庫」誕生秘話
著 駒井 稔/而立書房
-
2025.01.03
いつも、そばに
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫
-
2024.12.19
新聞のススメ
1日15分でつくる教養の土台著:高井 宏章/星海社
-
2024.10.17
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
著:三宅 香帆/集英社
-
2024.08.01
天気の不思議を読む力
著:トリスタン・グーリー/エイアンドエフ
-
2024.06.06
日本の物流問題-流通の危機と進化を読みとく
著:野口 智雄/筑摩書房
-
2024.01.04
世界を動かした名演説
著:池上 彰、パトリック・ハーラン/筑摩書房
-
2023.12.07
超インテリアの思考
著:山本 想太郎/晶文社
最新紙面情報
Vol.402 2025年03月20日号
楽しみながら自分を表現する
かがわ総文祭生徒実行委員会
未来の“きざし”を体感するイベント 「サニピッチ」開催レポート
サニピッチ2025
花あかり
Photo:T.Nakamura