散歩哲学 よく歩き、よく考える

著:島田 雅彦/早川書房

column

2024.07.04

用もなく、ほっつき歩くことをペルシャ語では「チャランポラン」ということを本書で初めて知りました。イランの映画監督キアロスタミに「友だちのうちはどこ」という作品があります。そこでは主人公の少年が不安げな表情で、ジグザグ道を歩き回ります。チャランポランとは少し違いますが、その映画のことを思い出してしまいました。ちょっと脱線しましたが、今回はチャランポランによく歩き、よく考えようという散歩の哲学を説いた本です。

世界中にある都市という場所は、古今東西のチャランポランにほっつき回る人たちを引き付けるようです。永井荷風も日和下駄に「その日その日を送るに成りたけ世間へ顔を出さず金を使わず相手を要せず自身一人で勝手に呑気にくらす方法をと色々考案した結果の一ツガ市中のぶらぶら歩きとなったのである」と書いています。しかしその後に「日々昔ながらの名所古蹟を破却していく時勢の変遷は市中の散歩に無常悲哀の寂しい詩趣を帯びさせる」とも書いています。ただチャランポランにという訳にはいかないようです。現在はすつかり街歩きが趣味の一つになって、食べ歩きから歴史散歩や文学散歩などに余念がない人が増えました。大通り沿いの華やかな通りよりも、脇道にはいり込んだ迷路のような路地裏の道のほうが当然魅力的だと思います。著者によればヴェネチアのように迷路状になったウォーカーズフレンドリーな都市は世界中にどんどん増えているといいます。オランダのライデンもヴェネチアと同じように車の通行は一切なく、大駐車場に車をとめて街中は徒歩で移動することになっているようです。 

もっとも私たちの日常の散歩は、どこかいい店はないかと目を凝らしたり、木陰のある公園のベンチで缶コーヒーを飲んだり、たまには「孤独のグルメ」の井之頭五郎のように博打感覚で店に飛び込むのが関の山かもしれません。最後に著者がいうように私たちが散歩する時は、その土地の人々の寛容さにあまえている。立場が入れ替わって自分が散歩者を迎え入れる側に立ったら、やはり彼らに寛容さを示さなくてはいけないと思います。それと今の時期は昼間の暑いときは避けて、朝夕の涼しい時間帯をおすすめします。

宮脇書店 総本店 店長 山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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