やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか

著:田中 世紀/講談社

column

2021.11.04

もう何年たったのでしょうか。滝川クリステルさんのプレゼンテーション、「おもてなし」の心で五輪誘致を勝ち取ったのは。当時、なるほど日本には「おもてなし文化」というものがあったのだと思いました。しかし当のオリンピックは新型コロナウイルスの影響で外国からの観客を呼ぶことはかなわず、結局おもてなしの精神を外国のお客様に発揮できませんでした。

ところで本当に日本は「おもてなしの国」や「思いやりの国」なのでしょうか。2019年の秋、Yahoo!ニュースにひっそりと「人助けランキング、日本は最下位」という記事が掲載されたといいます。最下位とはあんまりなのですが、一方で東日本大震災の時に、人々が結束して助け合う姿を世界が絶賛しました。

「他人にやさしくない国」と「思いやりの国」、どちらが日本の実像に近いのでしょうか。先の総理が「自助」、「共助」、「公助」を政策理念に掲げて話題になりましたが、日本は「他助」と「公助」が脆弱化して「他人にやさしくない自助だけの国」になりつつあるというのが本書の出発点であると著者はいいます。

「国は貧しい人たちの面倒をみるべきか」という調査では、「みるべき」と答えた人の割合がイギリス91%、中国90%、アメリカ70%に対して、日本はこれも調査対象中最低の59%。また「他国の人は信頼できるか」という調査では、「信頼できる」と答えた人の割合がアメリカでも8.1%なのに対し、日本はわずか0.2%だということです。日本は他人にも他国にも「やさしくない国」だという結果が出ています。著者は、日本はアメリカよりも個人主義的な社会になって、集団よりも個が意識されることが強くなっており、社会が個人レベルで細分化され、公助への合意形成が難しくなっている可能性があると指摘しています。

これらのデータはここ10年を切り取った日本人像であり、今から10年後の日本はより利己的で、さらに自己責任の国になっている可能性もありますし、その逆かもしれません。100年前の日本は欧米人から「日本人は怠け者だ」と言われていました。今そんなことを言う外国人はいないのですから。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

記事一覧

おすすめ記事

関連タグ

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ