水理学を生かした魚の道
持ち運べる「魚道」を開発

Interview

2025.10.16

「水がきれいなだけでは生き物は生きていけない。移動してこそ命がつながる」と香川高等専門学校建設環境工学科の高橋直己准教授。アユやサケなどの回遊魚は海と川を行き来して産卵・成長する。しかし、人間が築いた堰や護岸が障害となり、移動を妨げられ、絶滅の一因にもなってきた。

1997年の河川法改正で「環境への配慮」が盛り込まれ、魚道の設置が進められてきたものの、全国に無数にある小規模の段差まで解消するには莫大な費用と時間がかかる。「公共事業だけでは限界がある。地域の人でも扱える仕組みが必要」と指摘する。

そこで開発したのが「持ち運べる魚道」。材料はホームセンターで手に入るものばかり。分割式ユニットを現場で組み合わせれば数分で設置でき、不要になれば容易に撤去できる。しかも特定の川や魚種専用ではなく、規模や環境に応じて組み合わせを変えられるため、高い汎用性を持つのが大きな特徴だ。

実証は全国へ広がっている。北海道・斜里町ではサケが数十年ぶりに上流へ遡上し、産卵場が回復。福井県では、これまで漁業者が投網で行っていたアユの「汲み上げ放流」が、魚道の導入によって不要となった。兵庫県では遡上力が弱いとされるカジカ類、鮒ずしの材料となる琵琶湖のニゴロブナも。また、このような実用的な活用にとどまらず、子どもたちの環境学習にも展開されているという。

研究室の学生たちも重要な役割を担う。室内実験では、魚の遊泳特性に応じた流速分布や流向、空間の体積といった条件を解析し、改良に生かしている。本科5年の山本菜々子さんは、絶滅危惧種カジカを対象に「カジカは伝統料理に使われており、食文化を支える意味でも守る意義がある。現地で遡上する姿を見たときはすごくうれしかった」と語る。専攻科1年の阿部龍太郎さんは「治水や利水といった人間のための開発だけでなく、生き物との調和も必要。魚道研究を治水の視点とつなげていきたい」と話す。本科5年の葎迫音羽さんは、オオサンショウウオのえさとなる小魚も登れる魚道を設計中。「珍しいテーマに挑戦できるのが楽しい」と笑顔を見せる。

現場での経験と社会との関わりを重ねる中で、学生たちは専門性と実践力を培い、次の歩みへとつなげている。

香川高等専門学校

住所
香川県高松市勅使町355
代表電話番号
087-869-3811
設立
昭和18年
キャンパス
高松キャンパス
〒761-8058 香川県高松市勅使町355 TEL087-869-3811/FAX087-869-3819

詫間キャンパス
〒769-1192 香川県三豊市詫間町香田551 TEL0875-83-8506/FAX0875-83-6389
地図
URL
https://www.kagawa-nct.ac.jp/
確認日
2024.03.07

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