“パリパリ”にして暮らしを清潔に快適に

島産業 社長 島 憲吾さん

Interview

2020.10.15

観音寺市中田井町の島産業本社

観音寺市中田井町の島産業本社

目指すは“家庭の必需品”

商品は3タイプ。最新モデルの「パリパリキュー」(左)と 2代目の「パリパリキューブライトアルファ」

商品は3タイプ。最新モデルの「パリパリキュー」(左)と
2代目の「パリパリキューブライトアルファ」

「テレビや冷蔵庫や洗濯機のように“一家に一台”の存在にしたい」

島産業の島憲吾社長(67)が熱く語るのは、2009年に開発に乗り出して以来、改良に改良を重ねてきた家庭用生ごみ減量乾燥機「パリパリキューブ」だ。この半年では、全3シリーズ累計で想定を大幅に上回る約5万台を販売。SNS上でも度々話題になり、少しずつ“家庭の必需品”に近づきつつある。

全国の自治体向けに廃棄物処理プラントなどを設計・施工する島産業。ある時、島さんは仕事で訪れる清掃工場で、いつも目にする光景にピンときた。「処理されている生ごみは“じゅくじゅく”の状態。まるで水を燃やしているようでした」。水分を多く含む生ごみは、重く、放置すれば雑菌が増殖して悪臭が漂い、コバエがたかる……。「生ごみに頭を抱えている家庭は多いはず」。そう睨み、「生ごみ処理機」の開発を決意した。

まずは試作機をつくった。カッターで生ごみを切り刻み、遠心分離で水分を飛ばす。これまで培ってきた廃棄物処理技術を結集し、「ベストなものができたと自信を持っていました」。早速20人ほどの主婦に使ってもらい、アンケートをとった。ところが『ごみの汁が垂れてくる』、『臭い』、挙句の果てには『こんな機械、使いたくない』……。「散々な結果でしたね」と島さんは苦笑する。

方針を180度変えた。“技術者目線”ではなく、“使用者目線”へ。「『使いやすさ』を徹底的に追求しました」。生ごみの水分は飛ばすのではなく、熱風をあてて蒸気にし、乾燥させる。「家の中でヒーターを使うことになるので、安全面には一番気をつけました」。何百回、何千回とテストを繰り返し、熱効率や安全性を検証。最適な温度と作動時間を導き出した。

特に苦労したのが「脱臭」だ。臭いをとる吸着剤を1年以上探し回り、海外のある町で特殊な活性炭をついに見つけ出した。こうして初代生ごみ処理機「パリパリキューブ」が誕生。開発に4年を費やし、13年から販売を始めた。生ごみをセットして一晩置くと、すっかり干からびて枯葉のように“パリパリ”に。量や重さは5分の1ほどに減り、臭いもほとんど気にならない。「可燃ごみとして出せば、CO2を大幅に削減できます」

今年4月に発売した最新モデルの「パリパリキュー」はスタイリッシュなデザインと機能性が評価され、国際的に権威のある「iF DESIGN AWARD」、「Red Dot DESIGN AWARD」「German Design Award」の3つのデザイン賞を、さらに今月1日には“Gマーク”で知られる国内の「グッドデザイン賞」を受賞した。

熱効率などのテストは現在も継続中。これまでに国際特許を含め、50項目以上の特許を取得している。「最初はほとんど売れなかった。でも、銀行の担当者さんが大手家電量販店や卸業者に売り込んでくれるなど、いろんな人が力になってくれた。感謝してもしきれませんね」。島さんは目を細める。

チケットを握りしめて

父が創業した島産業に1976年に入社。35歳で社長を継いだ。経営状況は非常に厳しく、施工現場や営業先を駆けずり回る日々。当時の話を尋ねると、「苦い記憶なので……」と多くを語らない。だが、本棚の奥からあるものをそっと取り出し、見せてくれた。

小さな額に入ったJRの乗車券。行先は福岡県豊前市。88年12月19日、島さんはこのチケットを握りしめ、観音寺駅から電車に乗り込んだ。社長になり、会社を一から立て直そうと最初に手にした仕事だった。「こういう時期があったなぁとか、あの頃の苦労を乗り越えて、といった感傷に浸る気はさらさらない。でも……大切なチケットですよね」と、島さんは言葉を繋ぐ。

“無いと困る”真の家電へ

「パリパリキュー」は世界3大デザイン賞の一つとされる 「iF DESIGN AWARD」など数々の賞を受賞

「パリパリキュー」は世界3大デザイン賞の一つとされる
「iF DESIGN AWARD」など数々の賞を受賞

生ごみは、家庭から排出される可燃ごみの4割を占め、9割の家庭が“そのまま”燃やせるごみとして出している。

今後の課題は、パリパリキューブをいかにPRし、存在を知ってもらうか。島さんは「もっともっと本当の意味での家電にしなくてはならない」と口調を強める。「『無かったら困る』と思ってもらえないと、本当の家電とは言えません」

約2ℓの生ごみをパリパリにするには平均して9時間ほどかかる。時間をもっと短縮したいし、デザインももっと洗練したい。「多くの人に知ってもらうには、『いいものをつくる』。それしかありません」

廃棄物処理プラント設計・施工との二本柱で、近い将来には「パリパリキューブ」を海外へ展開したいと目を輝かせる。「清潔感のある快適な暮らしを提供したい。そのために、勉強しながら苦しみながら、商品を進化させていく。だから、ものづくりって面白いんですよね」

篠原 正樹

島 憲吾|しま けんご

略歴
1952年 観音寺市出身
1970年 観音寺第一高校 卒業
1974年 明治大学経営学部 卒業
     造船メーカー勤務を経て
1976年 島産業株式会社 入社
1988年 代表取締役

シマ株式会社

住所
香川県観音寺市中田井町1番地
代表電話番号
0875-63-4111
設立
1952年11月10日(創業)
事業内容
官需向けリサイクルプラント、粗大ごみ処理施設の設計・施工・メンテナンス、家庭用生ごみ乾燥機の開発・販売
受賞歴
iF DESIGN AWARD 2020
Red Dot Design Award 2020
2020年度グッドデザイン賞
「German Design Award 2021」Special Mention受賞
地図
URL
https://www.shimacorp.com/
確認日
2024.02.01

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