
「ある風土や環境において、僕らが本当に感動するのは、その土地に昔から人々が生きてきた痕跡と、脈々と受け継がれてきた知恵の産物が見事にかたちを成しているのを目にする時である。・・・無垢の自然そのものよりも、それとどう関わり続けてきたかを見ることに感動するのである」
この感覚は実感としてわかりませんが、世界中を見てきた人と、海外へ出たことのない人との差でしょうか。
著者は岡山出身の著名なデザイナーで、先ごろ始まった瀬戸内国際芸術祭にも関わっています。タイトルの低空飛行は著者が立ち上げたウェブサイトの名で、この本はそのウェブサイトに掲載されたブログに加筆したものですが、そこでは瀬戸内を含め日本あるいは世界の観光という分野に新しいアプローチを試みています。日本は今一度、その風土と今までの文化の蓄積に向き合って、覇権のせめぎ合いで揺れる世界の人々が、心穏やかに生に向き合えるような、純粋な自然の贈与を満喫できるような場所になるように「低空飛行」を続けているということです。
そして冒頭にこんなことも書いています。人類が長く親しんできた主語「わたし」が「わたしたち」へと移行し始めている。コロナや気候変動の問題も「わたし」に降りかかった災厄ではなく「わたしたち」が直面している問題である。かつて岡林信康が「私たちの望むものは」と歌い、一つ若い世代の中山ラビは「わたしが望むのは」と歌って答えました。今新しい歌をうたう人はいないでしょうか。コロナや覇権を争う時代に個人は無力ですが、でも集団になると、どこかへ連れていかれてしまいそうな心配もしてしまいます。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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