
日本の街路樹は、世界にも稀な「寂しい」状態にあると本書で述べられています。近年は台風や豪雨などの自然災害が多発し、街路樹が倒れて道路が通行止めになったり、電線が切断されたりするニュースをよく耳にしますし、落ち葉や鳥害の問題もあって、街路樹はむしろ都市のお荷物とさえ言われているようです。
倒木を避けるために日本の街路樹は小さく、小さく切り詰められていますが、海外では気候変動への取り組みとして街路樹を大きく、大きく育てようという戦略を進める都市が増えていると言います。本書に写真が掲載されている、ロンドンのプラタナスの街路樹、メルボルンやハンブルクの市街地の街路樹、テラスでくつろぐパリの人たちなど、うらやましい限りです。
私は行ったことがありませんが、本書には日本でも仙台の定禅寺通りや、名古屋の久屋大通り、広島の平和大通りなど木立の下を歩くと街路樹の枝葉がトンネルのようになって、車優先でなく人優先の歓びを実感できるとあります。道路に直射日光があたると、真夏の路面温度は50度を越えますが、街路樹の木陰ではそれが約20度も低くなると言います。温暖化やヒートアイランド現象の激化を受けて、世界の都市では道路だけではなく都市全体で樹冠被覆率を増やす取り組みが進んでいるようです。樹冠被覆率とはあまり聞きなれない言葉ですが、樹冠とは枝や葉が繁っている部分のことで、樹冠が広がると当然強い日差しを遮る範囲が広がります。
著者は日本の街路樹を考えるときの資料として、国や自治体が作成する街路樹調書があり、そこには樹種、本数、路線延長等の項目が記されていますが、その中で最も重要視されているのが本数だと言います。この本数から樹冠被覆率への転換こそ重要だと述べます。維持管理は大変ですが、高松の中央通りも歩道にも木陰の出来る樹が欲しいし、レインボー通りやサンフラワー通りも県外から人が呼べる街路樹のある通りになればと思います。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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