博物図譜に見る讃岐の果実~イチジク~

野菜ソムリエ上級プロ 末原俊幸

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2021.09.02

香川県指定有形文化財「衆芳画譜 花果 表47」(部分) 高松松平家歴史資料(香川県立ミュージアム保管)

香川県指定有形文化財「衆芳画譜 花果 表47」(部分) 高松松平家歴史資料(香川県立ミュージアム保管)

トウガラシやトウモロコシを、方言で「なんばん」と呼ぶ地域があります。「なんばん」とは、室町時代から江戸時代にかけて東南アジアに植民地を持つスペインやポルトガルからもたらされたものという意味を持ちます。当時、これらの植物が日本中に広まる過程で、国外からもたらされた食材ということで「なんばん」という名称がついたと想像ができます。
香川県にも「なんばん」として伝わる植物があります。それがイチジクです。最近あまり聞かれませんが、年配の方、また青果物業界では、イチジクのことを「なんばん」と呼ばれる方がいます。この呼び方は、江戸時代中期にまで遡ります。当時の花や果実が描かれた『高松松平家博物図譜〜衆芳画譜〜花果』(写真)に、「イチジク」の絵があり、名称として「イチジク」又は「なんばん」と表記されています。また、この図譜には、漢名である「無花果」、日本におけるイヌビワの呼び名である「いちじく」、そしてこの時代に国外から日本にもたらされたという意味の「なんばん」と3種類の名称が併記されているのも興味深いところです。
ちなみに、現代において流通しているイチジクは、白い果皮が特徴の「蓬莱柿(ほうらいし)」と、赤紫の「桝井ドーフィン」が主要な品種です。博物図譜に描かれた「イチジク」は、果実は未成熟のものですが、葉の形態は、現代も香川県で栽培・流通されている「蓬莱柿」の特徴を明確に捉えており、現代においても、300年前と同じイチジクの味覚を楽しんでいることがわかります。

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん

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