白味噌

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2016.01.21

明治時代から使われる味噌を醸す桶(こが)

明治時代から使われる味噌を醸す桶(こが)

今でこそ一年中手に入れられる調味料ですが、調味料の製造は原材料や気候によるところが大きく、新物が市場に出回る季節は限定されていました。実は、生鮮食料品だけでなく、調味料にも旬が存在するのです。

生鮮食料品に旬があるように、調味料にも旬があります。例えば先月紹介した「砂糖」は、晩秋に収穫したサトウキビから絞り出した砂糖液を煮詰めて研ぎだすので冬が旬といえますし、夏場の暑い時期に海水を乾燥させる塩は夏が旬といえます。同様に、全ての調味料において製造のための原材料や製造を始められる気象条件がそろう季節が存在し、いわゆる「新物」が出回り始める時期がありました。
白味噌を使った讃岐の郷土料理「ワケギ和え」

白味噌を使った讃岐の郷土料理「ワケギ和え」

調味料の中で讃岐の冬を代表するものは、秋に収穫された新米と大豆で醸す白味噌でしょう。一部ではセチ味噌とも呼ばれ、貴重な新米を惜しげなく使い、塩分濃度を低くすることで甘みが引き立つように作られていました。特に、冷蔵庫の無かった時代は気温が高くなると腐ってしまうため、冬場の寒い時期しか味わうことの出来ない季節限定の調味料という位置づけでした。

今でも讃岐の冬場の郷土料理には、白味噌の旬は色濃く残っています。正月の餡餅雑煮に始まり、チシャもみ(レタスの酢味噌和え)、てっぱい(フナ等の酢味噌和え)、ワケギやナバナ(菜の花)の酢味噌和え、春になるとタケノコの木の芽和え、そして初夏の鰆の味噌漬けと、正月から初夏にかけての郷土料理は白味噌が味のベースになっており、この季節に欠くことの出来ない調味料であることがわかります。

白味噌の仕込みが佳境を迎える12月。昭和初期から続く中屋醸造所のある高松市塩上町には、大豆を煮る香りが立ち込めます。調味料の旬が、味噌の仕込みという古来より続く風物詩として、讃岐の地には今もなお生きています。

現代では日常的に様々な食材が手に入りますが、一つ一つの食材を深く掘り下げていくと、その食材には成り立ちと旬があり、讃岐の食卓は、今もなお旬を大切にしながら構成されていることに気づかされます。

餡餅雑煮 お正月の伝統スイーツ

餡餅雑煮(写真提供:香川県農業経営課)

餡餅雑煮(写真提供:香川県農業経営課)

甘い餡餅を、甘い白味噌の出汁で食べるという全国に類を見ない「餡餅雑煮」。香川県には「餡餅雑煮」の文化が全域に渡り(小豆島などを除く)定着しています。県外の方にとっては言葉を聞くだけではその味覚が想像出来ないのですが、一度食べると忘れられない味です。
非常に倹約した食生活の中で、ハレの日だけは贅沢をするという讃岐の食文化の神髄が具現化した料理です。

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん

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