「アッ」ひらめきが生んだ 世界最大の水槽パネル

日プラ 社長 敷山 哲洋さん

Interview

2013.12.05

「水槽の支柱が目障りだ。のけてしまおう」。水族館の目玉になる回遊水槽の設計図を見て施主が言う。しかし、柱がないと水圧でガラスの強度がもたない。

工業高校で化学を学び、アクリルの製品開発に15年以上携わった36歳の時、日プラ(株)社長の敷山哲洋さん(80)は、柱のない水槽を透明なアクリルパネルで作るために、会社を辞めて独立した。

魚の生態を学ぶ場所からエンターテインメントへ。水族館が変わったのは、1970年、敷山さんが世界で初めて、屋島山上水族館でアクリルパネル製回遊水槽を完成させた時だ。

今、巨大なマンタやジンベイザメが回遊し、水中の透明なトンネルを人が歩く。水族館を竜宮にしたのは「アクリルは生き物」という敷山さんの化学技術力の成果だ。

接着剤がアクリルパネルに

「アクリルパネルの強度はガラスの10倍以上ある」・・・・・・ 大手化学繊維メーカーの子会社で、アクリル板を開発したノウハウと実績があった。

10分の1の模型に、海水の約13.5倍の比重の水銀を満たし、実験を繰り返した。350トン以上の水圧でもひずみが出ないようにアクリルパネルを厚くした。世界初、支柱のない直径10メートル、水量350トンの回遊水槽が完成した。

決め手は接着剤と加工技術だった。接着剤は硬化すると分子構造がアクリルパネルと均一になって、強度、透明度がアクリルパネルそのものになった。

技術より知名度?

自信を持って入札に臨んだが、大手企業にいつも負けた。小さな無名の会社だという理由だった。

「アクリルパネルの技術は、私が大手会社の専務だったときに開発したものです。相見積もりでは、その会社に工事は決まりました」。悔しかった。日本がダメなら・・・・・・ 「それで海外に市場を求めました」

世界の常識は違っていた。1992年、米国モントレーベイ水族館の増築工事の入札で、日本ではいつも負けるその大手と、米国のレイノルズ社との3社の競合になった。

「性能検査の結果が良かったので、採用します」。水族館の女性社長で館長のジュリー・パッカードさんが言った。

見積額が2社より10%ほど高かった。初めての米国進出だから、赤字にならなければいいと思った。「値段は2社に合わせます」と言うと逆に、「技術に自信があるのなら値引きの必要はない」とジュリー社長に説教された。

目からウロコだった。それまで以上に研究開発に精力を注ぎ、一切の妥協を許さず品質にこだわるようになった。

人は水中 魚は空中!

自由自在のアクリルパネル。人が"水中"を歩けば、アザラシが"空中"を泳ぐ。旭川市旭山動物園のペンギンプールは、水中の透明なトンネルをお客さんが歩き、その足元をペンギンが泳ぐ。登別マリンパークニクスは、プールの水面に立つドーナツ型の空中水槽を、ゴマアザラシがくるくる回る。ドバイのアトランティス・ザ・パーム・ドバイでは、サメの泳ぐ水槽の中に通したチューブトンネルの滑り台を、人が滑り降りる。

行き詰まりは助走のための足踏み

うどんで量産化に成功したアクリル製お盆

うどんで量産化に成功したアクリル製お盆

モノ作りでは早熟だった。小学6年生の時、空襲の焼け跡から使える部品を掘り出し、簡易なミシンを作って小遣いを稼いだ。

工業高校で無機化学、有機化学をそれぞれ3年間学び、当時は珍しかった高周波発信機製造会社に勤めた。高周波の内部加熱効果を利用して、アクリル製お盆や菓子器製造へ、アクリル板開発事業へと会社を変わったが、その間一貫してアクリルの加工技術と樹脂の透明着色や接着剤を研究してきた。

「私には失敗という言葉はない。壁にぶつかっても『アッ、こっちだ』とひらめく。その瞬間に、方向を変えて走ります。また行き詰まったら、それは助走のための足踏みです」

アクリル製のお盆は、2枚のアクリル板の間に模様のレース布を挟んで、接着剤を入れる。プレスすると接着剤が押し出されて困った。

「うどん屋で、カーペットの上に落としたうどんを取ろうと思ったら、くっついて取れない。『アッ』と思って工場に帰って、アクリル板の周りにうどんを置いてプレスしたんです」

うどんがアクリル板に挟んだ布に入り込み、接着剤をせき止めて流れ出ない。アクリル製お盆の量産化に成功。これがアクリルパネルを何枚も重ねて張り合わせる重合接着技術へ進展した。

「アッ」とひらめく!

日プラが手掛けた沖縄美ら海水族館のアクリルパネル。開館当時、世界最大のアクリルパネルとしてギネスに認定された=日プラ提供

日プラが手掛けた沖縄美ら海水族館のアクリルパネル。開館当時、世界最大のアクリルパネルとしてギネスに認定された=日プラ提供

「市場の求めるものが、『アッ』とひらめくというか、気づくというか・・・・・・」。商売は二の次で、「モノ作りが面白い」という。

世界シェアの70%(週刊ポスト2013年2月1日号)を占めたアクリルパネルは、03年沖縄美(ちゅ)ら海(うみ)水族館、08年ザ・ドバイモール水槽パネルと世界記録を2回塗り替え、現在は横40メートル高さ8.3メートル、厚さ64.5センチ、3回目の世界最大パネルの水槽を中国・珠海で建設中だ。

水族館をエンターテインメントに変えた敷山さんにとって、興味は世界記録の更新やシェアの拡大ではないという。

海洋生態系バランスを保つためにサメの保護の大切さを訴える、モナコ海洋博物館の特別展示に協賛して、世界中で嫌われているサメのイメージを変えるために、サメに触れるタッチングプールを作った。

「毎日行列が出来て、50センチくらいのサメに女の子も触っています」。展示は、今年の6月から始まり2年間開催される。

自然に対する畏敬の念と共に、自然と親しみ、楽しむ心を伝えたいという熱い思いがある。これからどんなアイデアがひらめくのか、1年のうち4カ月は海外だという敷山さんには、失敗も老いもない。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

敷山 哲洋 | しきやま てつひろ

1933年 兵庫県生まれ
    地元の工業高校を卒業し
    高松市の高周波発信機メーカーに就職
1969年 日プラ化工を設立
    水族館の水槽用アクリルパネル生産をスタート
1994年 米国モントレーベイ水族館の水槽が完成し
    本格的に海外進出を果たす
写真
敷山 哲洋 | しきやま てつひろ

日プラ 株式会社

所在地
木田郡三木町井上3800−1
TEL:087-864-4111
設立
1969年
代表者
代表取締役 敷山 哲洋
資本金
8000万円
主要株主
敷山 哲洋
住友化学株式会社
主要子会社
せとうち夢虫博物館株式会社
US NIPPURA INC.
事業内容
アクリルパネル「アクアウォール」の設計・製作・施工
水槽内防水ライニング工事(スミライニング)
映像スクリーン「ブルーオーシャン」の製造・販売
事業所
[ 志度工場 ]
さぬき市鴨庄4532−28
FAX:087-895-1316

[ 沖縄工場 ]
沖縄県うるま市州崎12-61
TEL:098-921-2661
FAX:098-921-2662

[ 神戸工場 ]
兵庫県神戸市中央区港島南町4丁目5−7
TEL:078-381-9681
FAX:078-303-3301
関連施設
[ 新屋島水族館 ]
高松市屋島東町1785−1
TEL:087-841-2678
FAX:087-843-9659
URL
http://www.nippura.com
確認日
2018.01.04

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