重量から情報の計測へ ~進化するはかりの面白さ~

鎌長製衡 社長 鎌田 長明さん

Interview

2014.04.13

重心の高さを計測して、コンテナトレーラーの横転事故を防ぐシステム「サトルス」。開発した鎌長製衡(株)は、PRのため県に寄贈、昨年10月から高松港で運用を始めた。

「はかりで重さを量るのは当り前。3次元の重心位置を量るのは面白い」。社長の鎌田長明(たけあき)さん(33)は、大学院でITを研究、在学中にベンチャー企業を起こした。2006年、産業用はかりや計量システムのメーカー鎌長製衡に6代目後継者として入り、世界初の3次元重心測定システムの開発にかかわった。

「地元に帰ることに迷いはなかった。土地が狭い。資源が無い。少子高齢化が進む。日本の縮図のような香川で、最先端の仕事に挑戦できるのは幸せです」

世界の港へ「サトルス」の導入を目指す鎌田さんは、強い日本のものづくりの新世代だ。

引き算から足し算へ発想転換

最先端技術を使ったはかりは、地球の自転運動の影響で、測定位置の緯度の違いや場所の高低で測定値が変化する。鎌長製衡は、その精度を確認、調整するための1ミリグラムから2トンまでの標準分銅を製造している。

1880年に初代の鎌田長八郎さんが鋳物屋を始め、鋳物技術を応用して分銅メーカーになり、日本秤錘(ひょうすい)株式会社として日本の分銅作りを独占した。

理由は製造技術の革新だった。分銅の重さをやすりで削って調整していた「引き算方式」を、中空構造にして、鉛を注ぐ「足し算方式」で、高品質な分銅を安く作った。

トラックスケール

戦後、はかりを作り始めた。1947年、日本秤錘株式会社を分社化して、現在の鎌長製衡の前身「鎌長産業(株)」を設立した。

「はかりを作るために分銅が必要です。50トンを量るには、50トンの分銅が必要です」。分銅メーカーにしか作れない、重いものを量るはかりを作った。

積み荷をトラックごと量る「トラックスケール」は、物流が鉄道からトラックに変わって主力製品になった。マイコンを使った高性能の重量表示器を装備して、業績は飛躍した。

はかりのシステム化

ホッパースケールは、サイロの搬入、搬出用に使う計量装置だ。輸入した穀類は、港で船からトラックに積んで、トラックスケールで量った後、サイロに貯蔵していた。

今は船から空気輸送装置で吸引荷揚げして、ホッパースケールを通して計量しながらサイロに入れる。

パッカースケールは、飼料や食品などを数キロ~30キロまで袋詰めするための計量装置だ。1時間に最大500袋を自動包装する性能は、速度と精度で世界のトップクラスだ。

積み荷ごとトラックを量るトラックスケールが、ホッパースケールへ、自動包装機へ、食品や飼料業界の工場ラインを変えたと言われる連続自動供給システムへ進化した。

リサイクルプラント

量りを載せてトラックスケールをチェックする

量りを載せてトラックスケールをチェックする

スクラップ業界もトラックスケールの得意先だ。スクラップごとトラックを量って、取引するが、1960年代中ごろから空き缶が、やがてペットボトルなどのスクラップが増えてきた。

空き缶やペットボトルを山盛りにして運んでいては、運送費も出ない。そこで「山盛りを一塊に」潰すために、圧縮減容機や粉砕機を開発した。

1997年、容器包装リサイクル法が施行された。市町村に資源ごみのリサイクル施設が出来た。粗大ごみから、スチール缶やアルミ缶、プラスチック容器などを素材別に選別、圧縮するリサイクルプラントの施工を事業化した。

3次元重心測定システム

「コンテナを開けずに重心位置を知りたい」。2006年、横浜港湾貨物計量協会から依頼を受け共同開発した。

1970年代、港湾のコンテナ化が急速に進んだ。コンテナは輸送中に開封して中を確認することは、国際法上出来ない。積まれ方がわからないことや、重心が高いため、コンテナトレーラーは、カーブで横転事故を起こしやすい。

「重心の高さの位置は、形が分からないと測定出来ません」。コンテナトレーラーは台車のサイズがさまざまで、開発のネックになった。レーザーセンサーで、タイヤの位置を計測して、重心の高さを割り出した。

「日本のコンテナ取扱量は世界の5%ほど。国内で『サトルス』が100台は必要ですから、海外で2000台は見込めます」。コンテナ輸送は年率10%ほど増えているという。

失われた技術

重心が量れるようになって、航空コンテナのニーズも見えてきた。ところが苦難の時があった。1995年、バブル期の不動産投資の失敗などで倒産、10余年かけて開発力で顧客の要望に応え、銀行団の融資で、2007年、会社整理を終えた。

この時期、社員の採用を抑えたので中間層が少ない。さらに失われた技術もあった。

「はかりの基本の天秤は、真ん中の一点でさおを支えています。この一点の『点』がいまの技術では作るのが難しい」

鎌田さんは技術の継承が課題だと話す。長い目で見ると開発の選択肢が減ることにつながるからだ。

情報を量る

積み荷の重心の位置を測定するトラックスケール「サトルス」

積み荷の重心の位置を測定するトラックスケール「サトルス」

「新製品の開発は通常業務です。会社が生き残るためではありません。時代とともに物流や製造の形態が変わります。はかりもそれにあわせて進化します」

重さを正確に量ると、重さが持つ情報がわかる。バケツの中のねじの数も、1個15グラムでバケツ1杯が15キロなら、中身は1000個だと分かる。

「重さを量る以上のことが、きっと出来るようになります」。鎌田さんは、重さを量る世界から、次のニーズ、情報を量る計器への進化を見据えている。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

鎌田 長明 | かまだ たけあき

1980年 高松市生まれ
2003年 東京大学経済学部 卒業
2004年 東京大学大学院経済学部研究科修士課程 修了
2006年 鎌長製衡株式会社 取締役
2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程 満了
2008年 鎌長製衡株式会社 取締役副社長
2012年 同社 代表取締役社長
写真
鎌田 長明 | かまだ たけあき

鎌長製衡株式会社

所在地
高松市牟礼町牟礼2246番地
創業
1880年(明治13年)
設立
1947年(昭和22年)
資本金
8000万円
代表者
代表取締役 鎌田長明
従業員数
140人
事業内容
産業用はかり、計量システム、計測制御リサイクル用処理機器の製造及び販売
沿革
1947年 鎌長産業(株)を設立
1957年 鎌長製衡(株)に社名変更、工場を現在地に移転
1967年 トラックスケール組立工場増設
1968年 ホッパースケール組立工場増設
1969年 ホッパースケール組立工場増設
1970年 パッカースケール組立工場増設
1975年 不燃ゴミ資源化・減容化設備製作
1994年 特定計量器型式承認許可(2トン以下)
1995年 特定計量器型式承認許可(2トン超)
1997年 リサイクル法制定に伴い、PETボトル減容機(PBシリーズ)
及びその他プラスチック圧縮梱包機(PLシリーズ)の製作開始
1998年 PETボトル圧縮減容機(PBシリーズ)組立工場増設
2000年 その他プラスチック圧縮梱包機(PLシリーズ)組立工場増設
2001年 デジタルロードセル式トラックスケール完成、発売開始
2008年 「JCSS分銅校正事業」登録
2011年 「JCSSはかり校正事業」登録
確認日
2018.01.04

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