映画監督・・・・・・ 素顔は現役銀行員

映画監督・脚本家 百十四銀行行員 香西 志帆さん

Interview

2014.04.03

映画「恋とオンチの方程式」は、津田の松原が舞台だ。メガホンをとったのは、高松市に住む香西志帆さん(37)。彼女は映画監督が本業ではない。

百十四銀行営業統括部に所属。ポスターやチラシをつくる広告・宣伝や、店舗の販売促進アドバイザーなどの業務をこなし、週末や有給休暇を使って映画を撮る。「そこまでやらなくてもいいのに、なんでそんなにやっちゃうんだろうって、自分でも思います」

「恋とオンチ―」のクライマックスには、実に37年ぶりの映画出演となった森昌子さんが登場し、津田の松原で熱唱する。ヒロインの娘を明るく支える重要な役どころ。「女優じゃないから」「スケジュールがおさえられない」と出演を断り続ける森さんを、「地元の人に喜んでもらうために絶対必要」だと口説き落とした。

香西さんをいつも笑顔で応援してくれる母・明美さん(63)。森さんに、そんな母の姿を重ねたのかもしれない。

本広監督との出会い

幼い頃から、本を読んだり、マンガを描いたりするのが好きだった。小学生の時には江戸川乱歩の影響を受け、「へび一族」という小説を書いた。友達が楽しんでくれるのがうれしかった。中学時代には少女マンガを描き、賞ももらった。一度好きになると資料や教材を読み漁り、とことんまでのめり込んだ。

新聞記者になりたかったが、地元の百十四銀行へ入行。何度も希望を出し、26歳の時、念願の広報グループへ。社内を取材して話題を載せる社内報作りに夢中になった。自分が作ったもので人が喜んでくれるのが、やはり何よりうれしかった。

「次第に、社内だけじゃなく地域のネタも取材しよう、となったんです。そこで出会ったのが、当時善通寺市で映画を撮っていた本広克行監督でした」

本広監督に「なぜ映画監督をしているんですか?」とインタビューしたら、「事故に遭って大学を受験できず・・・・・・その現実逃避から映画の道に進んだんです」。香西さんもつらいことや嫌なことがあると映画を見て気分転換をしていた。

映画を撮ってみたくなった。

本広克行
丸亀市出身の映画監督。「踊る大捜査線」シリーズなどを手掛ける。
当時善通寺市で撮影していたのは「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)。
13年から「さぬき映画祭」ディレクターを務める。

‟銀行員‟だからこそ

物語を生み出すカードや相関図

物語を生み出すカードや相関図

2007年、さぬき映画祭の映像塾「映画制作実践講座」を受講し、週末には東京や大阪へ脚本を学びに行った。平日は銀行での通常勤務を終えて帰宅し、午後10時に就寝。2時に起き出し、脚本を書いたり編集したりして、そのまま出社することもある。これまでに、自主制作短編映画の監督や脚本、自治体からの依頼による啓発ビデオなどを手掛けてきた。

銀行員はもちろん副業禁止。制作はギャラ無しの完全ボランティアで、自腹を切ることがほとんどだ。

「いかに低予算で抑えるか。撮影日数を減らすために脚本を書き直すことはざらです。また、たくさんの人に見てもらうため、どうすれば話題になり波及するか。銀行員だからこそ出来ることもたくさんあります」

社内報作りなどで社外ネットワークも広がり、撮影場所を提供してもらったり、スタッフとして撮影を手伝ってもらったりもする。

本広監督から教わったのは「映画監督は、自分で自分をプロデュース出来ないといけない」。"銀行員映画監督"で注目されるなら、それを強みにしようと思った。

一昨年、友人の親友だったことでん取締役・真鍋康正さんに「映画を撮らない?」と声をかけられ、初めての長編映画「猫と電車」(主演・篠原ともえ)を制作した。

3日徹夜して台本完成

手のひらサイズのカードを常に持ち歩き、シーンや台詞が思いつくとメモしていく。人物を設定し、相関図を描き、カードを並べ替えて物語を組み立てていく。

「恋とオンチ―」では7本のプロット(構想)を作った。当初タイトルは、「うらみ節歌謡ショー」だったが、10回以上書き直し、ようやく約100ページの台本が完成した。

物語は、バスガイドを務める"音痴"のみどり(夏菜)が、音楽好きの大手音響メーカーの御曹司と恋に落ち、親友のような明るい母親(森昌子)や幼なじみ(平岡祐太)に支えられ成長していくドタバタのラブコメディだ。

構想から1年がかり、本広監督プロデュースのもと、さぬき映画祭2014の目玉作品として公開された。

「コンプレックスは誰にでもある。人は簡単には変われないけど、今の自分で頑張って元気になろうというメッセージを込めました」

コメディタッチな作風

香西さんの作品には、コメディが多い。うどんのゆで汁による水質汚濁を危惧した香川県が、うどんの飲食を禁止し県民がパニックに陥る「UDON禁止令」。SFコメディタッチで家族の絆を描いた「カインの畑」・・・・・・。

クスッと笑えるシーンがちりばめられ、見終わった後には「家族愛」に気づかされる。

「母と7つ下の妹、家族が楽しく過ごせたのは母のおかげですね」

中学2年の時、両親が離婚した。つらいことも多かったが、記憶に残るのは、明るくて、いつも笑っていた母・明美さんの姿だ。「野良猫を拾ってきて飼ったり、病気になった近所の犬を世話したり。お人好しで元気で、今でも歌ったり踊ったりしていますよ」

作品が完成すると、必ず母に感想を聞く。「恋とオンチ―」も見せた。

「とても面白いって言ってくれました」

代表作は‟次”

「恋とオンチの方程式」は現在、劇場公開の話が進みつつある

「恋とオンチの方程式」は現在、劇場公開の話が進みつつある

取材したこの日は、さぬき市の津田公民館で地元の人たちを招いての上映会が行われていた。2回上映でともに満席。子どもからお年寄りまで、見終わって会場を後にする人たちのほとんどは笑顔だ。香西さんもそれをうれしそうに見つめている。

二足のわらじは大変じゃないですか?と尋ねると、「映画を撮っても、つらくてしんどいことばかり。楽しいことなんて何もないんです」と意外な答え。そして、こう続けた。「今度はしっとりとした人間ドラマを撮りたいですね。いつも『次の作品を私の代表作にしよう』って思っているんです」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

香西 志帆 | こうざい しほ

1976年 高松市生まれ
1999年 大学卒業後、百十四銀行へ入行
2003年 さぬきシェイクスピア「ロミオとジュリエット」出演
2006年 高松演劇ルネサンス工房戯曲コース受講
2007年 さぬき映画祭映像塾入塾
2008年 シナリオセンター大阪校入校
2012年 高松人間力大賞準グランプリ、まちおこし賞受賞
フィルモグラフィー
2007年 「優しくやってきた悪魔」
2008年 「白い粉」
2009年 「UDON禁止令」
    「振り込め詐欺にダマされるな」
2010年 「カインの畑―阿部家の絆編―」
    「四番丁FOREVER」
    「瀬戸内国際芸術祭オープニングムービー」
2012年 「万引きにレッドカード!」
    ことでん路線開通100周年記念映画「猫と電車―ねことでんしゃ―」
2013年 「アイドル戦士チャリンコキャンディ」
     MV「secret emotion」
2014年 「恋とオンチの方程式」
    DVD「万引きされにくい店舗づくり」
現在、高松ファイブアローズドキュメンタリー映画撮影中
写真
香西 志帆 | こうざい しほ

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