しかし先生との出会いは私が12歳の頃、瀬戸内海に浮かぶ男木島の小学校に教師として赴任して来られた時です。今でこそ瀬戸内国際芸術祭で少しは有名になった島ですが、不便な島暮らしの中で、昼間は教師、夜は漆芸作家として毎日深夜12時まで寝ずに制作活動に励まれる姿を見て、子どもながらにとても尊敬したものでした。
私が弟子入りしてからも、色々なことを勉強されており、香川漆芸の伝統である籃胎(竹ヒゴを編んで漆器の素地にする)が廃れていたことを嘆き、復活させるための研究を重ね、竹工芸が盛んであった大分県には私も連れて行って頂きました。様々な網代編みの現場を見学したり、漆芸界の大先生からの紹介状を携えて竹芸作家のお宅を訪ね、熱心に質問しておられた姿を間近に見せて頂きました。
そうした努力により古い籃胎の欠点を修正して、反りや歪みのない現代の籃胎が完成されたのです。最初は竹ヒゴもまともに作れなかった先生が、研究と努力によってどんどん進歩する姿を間近で見ていられたことが、私のかけがえのない財産になっています。
ほかにも「従来の蒟醤では絵画の様な表現は出来ない」と布目彫蒟醤を考案し、作品の表現の幅を広げてこられました。このように、先生はとどまることなく、作品制作に色々な試行錯誤を続けてこられました。
私は素晴らしい師匠に出会えた事に感謝し、少しでも先生の足跡に近づけるよう努力することが、先生への恩返し、私に課せられた責務だと思っております。
あらためて心よりご冥福をお祈り申し上げます。
大谷 早人さん | おおたに はやと
- 略歴
- 第60回日本伝統工芸展 保持者賞受賞ほか、数々の賞を受賞。日本を代表する漆芸家
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