第65回日本伝統工芸展

香川県立ミュージアム 一柳 友子

column

2019.01.03

金城一国斎《切金螺鈿箱「青麦」》

金城一国斎《切金螺鈿箱「青麦」》

当館の仕事始めは例年1月2日、その後3週間ほど月曜日も休まず毎日開館する。スタートダッシュするように年明けを迎えるミュージアムで新年恒例の展覧会となっているのが、日本伝統工芸展だ。

今回で第65回を迎える日本伝統工芸展は、戦後間もなく文化財保護法の中で「無形文化財」が保護対象となったことから始まった。建造物や絵画彫刻、工芸品などの歴史・芸術上価値が高い有形物を「有形文化財」というのに対し、「無形文化財」は演劇、音楽、工芸技術など形をもたない文化的所産をさす。形をもたないものに価値を見出すとは、なかなか難しい話だ。

まず展示されるのは形ある作品である。しかも作品は皆、人の手で作られたことが信じられないほど洗練されたものばかりだ。鑑賞者は作品を前に、作り手の存在を努めて想像することで、形をもたない高い技術に初めて触れられるのだ。技術を知るには、作品の題名も大きなヒントになる。陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸と、7つある部門の違いにかかわらず、題名には技術の名称がよく入る。展覧会では用語解説付きの目録を配布するので、ミニ解説のつもりで題名を読み解いてほしい。

さて、展示作品を紹介したい。今回、朝日新聞社賞を受賞した金城一国斎(きんじょういっこくさい)の《切金螺鈿箱(きりかねらでんばこ)「青麦(あおむぎ)」》は春先の若い麦を主題とした漆芸作品だ。色漆で緑のグラデーションを描いた素地の上に、金銀の薄い板を用いた切金による芽と、貝を貼りつけた螺鈿の葉がきらりと光る。春の生き生きとした生命力を表現するのは鮮やかな色彩の対比だ。作者は広島在住だが、香川県漆芸研究所で技術を学んだ。香川漆芸の特徴である多彩な色漆を活かした作品に、人の手を伝わって技術が広がってゆく様をみたように思う。

第65回日本伝統工芸展

【と き】1月20日(日)まで
【ところ】香川県立ミュージアム(高松市玉藻町5-5)※会期中無休、金曜夜間開館
【入場料】一般610円、、高校生以下・65歳以上・身体障害者手帳等をお持ちの方は無料

香川県立ミュージアム 一柳 友子

写真
香川県立ミュージアム 一柳 友子

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ