音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち

榎本幹朗/DU BOOKS

column

2021.07.01

音楽ビジネスの世界は、この百年、未曽有の危機に次々と襲われ、そのたびにそれを乗り越え新たな黄金時代を創ってきました。本書はその革新者の軌跡を辿って行きます。そしてその未来が、たとえそれが希望のあるものかどうかはともかくとして、その姿を提示します。サブスクリプションかCDかレコードかを悩むことが、本書を読むと些事に思えてしまいます。

「音楽は、炭鉱のカナリアのようなところがある。新しい技術革新の荒波に、ほかの産業に先立ってさらされる歴史を繰り返してきた。放送の登場も、ネットの登場も、まず音楽産業に破壊をもたらした。頭の古い連中だと、たびたびほかの業界から嘲笑された。だが最初に荒波に揉まれるからこそ、いつも新しい常識を音楽が連れてきた」。今から100年程前の1930年代の初頭、音楽業界は大不況と無料聴き放題のラジオの登場で売上が25分の1に激減したといいます。ネットの登場で売上が半減した現在の状況に酷似しています。

現代はもちろん100年前とは違います。次の時代は「スポティファイ」だと言われたのが10年前。ポスト・サブスクやポスト・ポスト・サブスクが取りざたされる今、詳しいことはよくわかりませんがブロックチェーンやクラウドAI、IoT、XRなどの技術で激変が予想されます。「ピアノとヴァイオリンがクラシックを、エレキギターがロックを、そしてサンプラーがヒップホップを生んできたようにIoTによる革新的な楽器の登場は音楽産業にメガトレンドを引き起こす」。また「楽器のユーザーインターフェースはこの数百年間、弦を叩くか(鍵盤)、はじくか(ギター)、擦るか(ヴァイオリン)の三つからほとんど変わっていない」といいます。

そして「コンピュータはありえない物理モデルを可能にするが、その可能性を十分に引き出すユーザーインターフェースは、これから誕生するのではないか」と予測します。テックイノベーションの最前線は「音楽」にあるようです。次の世代は「録音した、何度聴いてもどこも変わらない曲」には退屈するかもしれません。

著者は「魂の放つ輝きの軌跡とその結晶である音楽は未来永劫、社会を動かす魔力を放ち続けるだろう」と締めくくります。そしてすべての人がずっと音楽を好きでありますように。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ