たけぽぽ

桜製作所 社長 永見 宏介

column

2018.11.15

大学時代、人間国宝である生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)の作品に感動した中臣一(なかとみはじめ)は、卒業後に大分に移り住み竹藝作家に弟子入りした。24歳から竹工芸の道を歩んで20年になる中臣一の展覧会が5年ぶりに先月東京で開催され、今月は高松へ巡回する。

彼が独立して間もない頃に大分の仕事場を訪ねたことが懐かしく思い出される。最寄りの駅まで歩いて1時間、バスは朝夕1回しか来ないという大分の片田舎で、廃業したお寺の建物を家賃5000円で借り受けて住居兼仕事場にしていた。お寺の本堂には束ねた竹が無造作に積み重ねられ、仏壇があった本殿や脇殿には仕上がった作品が置かれてシュールな印象を強く抱かせた。境内には柿の実が熟れ、近隣の田畑が秋色に染まった景色は今でもくっきりと目に浮かぶ。

その後、すぐに非凡な才能を認められた彼の作品は、ボストン美術館、ニューヨーク、ロンドン各地で展示されパブリックコレクションに収蔵されてきた。日本ではリッツカールトンホテルにアートワークを頼まれたり、GUCCIのチャリティのために照明作品を提供したりと、近年の活躍は目覚ましい。伝統工芸の基礎をベースにしながらも新しい表現を次々と生み出す創造性にはいつも驚かされる。

最近は、仕事として生活の糧を稼ぐようになると段々と売れる物を追うようになって本当に作りたいことから離れているように感じると言いつつも、竹ひごを何千本も削ったあとに残った削り屑が愛おしく、意味の無い「たけぽぽ」を作ってみたけれど・・・と、はにかんだ笑顔がとても眩しかった。

AIを駆使して最先端技術の工作機がものづくりの現場を席巻する時代に、彼の作品を眺めて楽しめるのはとても嬉しいことだ。

中臣一 竹藝展

【ところ】桜ショップ高松店(高松市天神前4-32)
【と き】11月23日(金・祝)~29日(木)※23~25日は作家在廊
【問い合わせ】TEL:087-831-8866

桜製作所 社長 永見 宏介

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